アップルが米国時間の2023年9月12日に発表した新しいiPhone「iPhone 15」シリーズ。コネクタ部分にUSB Type-Cを採用したことなどで話題となったが、一方で円安の影響を受けて日本での販売価格は一層値上がりしている。この価格を過去と比べてみると日本で今後“高いiPhone”が定着する可能性は非常に高く、消費者もiPhoneとの向き合い方を考えるべき時期が来たことが見えてくる。

為替は昨年と同等ながら値上げが新興

毎年9月に発表されるのが通例となった、アップルのiPhoneの新機種。2023年も米国時間の9月12日にアップルが新製品発表イベントを実施し、「Apple Watch」の新機種に加え、新しいiPhone「iPhone 15」シリーズを発表している。

iPhone 15シリーズについては既に多くの報道がなされているので詳細説明は控えるが、コネクタがアップル独自のLightningから汎用的なUSB Type-Cに変更されたこと、そして上位モデルの「iPhone 15 Pro」シリーズではチタニウム素材を採用したり、その大画面モデルとなる「iPhone 15 Pro Max」では望遠カメラが光学5倍ズーム相当に変更されたりしたことなどが話題となったようだ。

  • 「iPhone 15」で日本の消費者に突きつけられた“高いiPhone”との向き合い方

    新しい「iPhone 15」シリーズはUSB Type-Cの採用に加え、「iPhone 15 Pro」シリーズではチタニウム素材の採用や、「iPhone 15 Pro Max」の望遠カメラなどが話題となった

だが、とりわけ日本で話題となったのはやはり価格ではないだろうか。iPhone 15シリーズの米国での価格は従来と変わっておらず、最も安い「iPhone 15」の128GBモデルで799ドル(税抜き)なのだが、日本での販売価格は円安の影響で12万4,800円と、2022年発売の前機種「iPhone 14」の128GBモデルにおける販売当初の価格(11万9,800円)と比べ、5,000円ほど値上げがなされている。

  • スタンダードモデルの「iPhone 15」は米国での価格は変わらないが、日本での価格は「iPhone 14」と比べおおむね5,000円値上がりしている

さらに言えば、円安が大きく進行する前の2021年に販売された「iPhone 13」の128GBモデルにおける、発売当初の価格は9万8,800円だった。わずか3年のうちに円安で価格が2割も上がってしまったことが理解できるだろう。

そして今回のiPhone 15の価格を見ると、値上げが進んだiPhoneの価格が固定化する可能性が高まっている様子も伺える。その理由はアップルが日本での販売価格を決める際の為替レートにある。

先にも触れた通り、ここ数年来米国におけるiPhoneのスタンダードモデルの価格は税抜きで799ドルと変わっていないことから、日本での価格は為替レートに大きく左右されているといっていい。そして各モデルの税抜き価格から販売時の1ドル当たりの為替レートを計算してみると、iPhone 13で約111円、iPhone 14で約134円、iPhone 15では140円で計算されていることが分かる。

このレートはモデルによってやや違いがあり、高額な上位モデルほどより円安のレートとなっていることが多いようだが、極端な差がある訳ではない。それゆえ一連の為替レートの変化から、アップルの日本における価格戦略の方向性を見て取ることができる。

iPhone大好き日本人に迫られる選択

それはアップルが、今後も円安傾向が長く続くと見ておりiPhoneの高止まりを決断したことだ。実はiPhone 14シリーズが発売された2022年秋頃の為替相場も現在と同様、1ドル当たり140~150円台の値が付けられていたのだが、その際アップルはiPhone 14シリーズの為替レートを130円台に抑えている。

それゆえアップルは2022年の時点で、為替相場が今後円高に戻ると見てiPhone 14シリーズの価格を円高寄りのレートで計算をしていたと考えられる。だがその後確かに一時円高にはなったものの、秋には再び1年前と同じ水準の円安に戻ってしまったことから、iPhone 15シリーズの販売時には円安が長く続くと判断、より円安寄りのレートで値付けをしたといえるだろう。

  • 「iPhone 14」が発売された2022年秋の為替レートも2023年と大きく変わっていないのだが、iPhone 14の価格はより円高のレートで計算がなされていた

そしてアップルが円安が続くと判断したことは、iPhoneの値段が当面下がる見込みがないことも示している。そしてこのアップルの判断は、日本の消費者に対して今後本格的に“高いiPhone”と向き合うことを求めてきたともいえる。

かつて携帯各社がiPhoneを優遇した大幅値引き販売を繰り返したことで、iPhoneが最も安いスマートフォンという時期が長く続いた。それが多くの日本の消費者をiPhone、ひいてはiOSのエコシステムに取り込んで依存度を強め、継続的なiPhoneへの買い替えを促すことでアップルの市場シェアを高める要因へとつながっている。

だが政府主導による度重なるスマートフォンの値引き規制、そして今回アップルが円安の長期化を見込んでiPhoneの価格をより上げる方針を打ち出したことから、iPhoneの新機種はもはや庶民が気軽に購入できるものではなくなってしまった。それだけにiPhoneのエコシステムにとらわれている人達には今後、無理をしてでも高いiPhoneを買い続けるか、比較的安いが中古や型落ちのiPhoneに活路を求めるか、あるいは一層安価な機種が多いAndroidスマートフォンに乗り換えるか……といった選択が明確に迫られることになるだろう。

もちろん為替の動向は流動的なので、突然円高になる可能性もゼロではないし、低価格の「iPhone SE」の新機種が再び登場するようであれば話は変わってくるかもしれない。だがそうしたサプライズがない限り、日本では高額なiPhoneから、何らかの決別を余儀なくされる消費者が増えることになるのではないかと筆者は予想している。