インテルの日本法人が今年の事業戦略を説明する記者向け会見を開いた。AIを軸とした今年の事業展開を披露するとともに、先月にラスベガスで開催されたCES 2025での発表も改めて紹介があった。
-
会見するインテル代表取締役社長の大野誠氏。AI時代の同社の戦略を説明
AI時代、インテルにも日本企業にも飛躍のチャンスがある
米Intelが先日発表した直近の四半期決算(2024年10~12月)では、アナリストの予想を上回る売上増があり減収幅を縮小した。しかしながら今後の需要は復活しきらない見通しで、立て直しへ苦戦はまだ続きそうな状況だ。
-
先月末に発表があったインテルの2024年10~12月の四半期決算。株式市場などはポジティブに反応しているが、まだ予断を許さない状況であり、今後の戦略は非常に重要
-
危機の時、進化するとは、ロバート・ノイスとゴードン・ムーアに続く「Intelの3番めの社員」であり、同社の製造技術の礎を築いたアンディ・グローブの言葉
インテルの代表取締役社長の大野誠氏は会見の冒頭、「優位性を戻していく」と述べた。苦境の理由を、「思い返せば、インテルは常に世界の最先端にいた。半導体の設計と製造が噛み合う好循環があったからだ。その、設計と製造の両輪、という強みが滞った」と分析。これまでの自社製造の路線を転換するとして、前CEOのパット・ゲルシンガー氏が打ち出したIDM戦略は継続し、半導体のグローバルサプライチェーンの強靭化への寄与で成長を目指す一方、「設計、製造の技術を磨く。これで競争力を高める方針は変わらない」と、優位性の奪還に同社の核心となる部分はブレていないことを強調した。
-
これからIntelはAI半導体にまい進することになる。IDM2.0を継続し、半導体の設計と製造の技術を両輪で磨き、優位性を取り戻す方針だ
また大野氏は、「今はAI時代。インテルにはあらたな戦略軸がある」と前置きして、「インテルにも、日本企業にとっても、まだまだ飛躍するチャンスがあると見ている」と述べ、特に日本と、日本企業におけるAI戦略を進めていることを明かした。
大野氏は現時点でも「AIはまだまだ黎明期」といい、「AIに出遅れたといわれる日本だが、社会がAIと親和性が高いといわれる日本でもある」と、日本の強みや課題が、AIと好相性であると説明する。
-
インテルが取り組む日本での注力エリア。人手不足のなかでのAI利活用や、半導体製造技術の革新、それにともなう日本企業との連携で、新たな価値を見出していく
-
これまでにも「AIニッポン活性化会議」を通して意見交換を行っているそうだ。インテルが主催し、経済同友会の協力ですでに何度か開催。日本でのAI利活用へ向け積極的に動いている
例えばAI半導体の製造の革新では、日本には半導体の製造装置や材料で強みを持つ企業が集中しており、製造技術の進化で役割が大きいとし、日本企業とインテルが組んで「SATAS」を設立したことに触れた。「SATASは半導体製造の後工程の自動化を推進する団体。なかなか自動化が進んでいない分野であり、自動化技術の実現と、標準化に取り組んでいる」。SATASは昨年経産省・NEDO事業にも採択された。現在は日本の製造装置、素材企業の加盟が増えている状況だが、大野氏は「後工程は日本企業が特に強い。世界の中でもまず日本で立ち上げることが最適だった。将来は(標準化を目指すということで)SATASの取り組みを欧米の企業にも広げていく考えはある」と述べている。
-
半導体製造の自動化の実現に、日本の業界有力企業が集まった「SATAS」。半導体後工程開発の団体ではレゾナックが進める「JOINT」も知られるが、レゾナックはSATASにも参画
vPro対応のAI PC、Windows 10のサポート終了で有力な選択肢に
会見では、年明けの「CES 2025」で発表のあった新型Core Ultraプロセッサについて、改めて概要がまとめられた。
-
CES 2025の発表で、Core Ultraプロセッサのフルラインナップが揃った。同社はCESにおいても、ある特定の分野にだけ、ではなく、あらゆるコンピューティングに向け製品を取り揃えることは、全体の利用環境や開発環境を進化させるうえで重要な取り組みだとアピールしていた
CES 2025での発表をもってデスクトップからモバイル、ハイエンドからスタンダード、ビジネス向け「vPro」対応に至るまで、同社のCore Ultraのラインナップがフルに出揃ったことになる。なかでもモバイル向けのLunar Lakeこと「Core Ultra 200Vシリーズ」のvPro版の発表を、同社は「大きなマイルストーン」だとしている。同社の技術・営業統括本部 IA技術本部部長 太田仁彦氏は、AI用のNPUを搭載するvPro版Lunar Lakeを、「ビジネス、特にアプリケーションの互換性が強みであり、将来を見据え、ソフトウェアパートナーとのAI開発を進めていくための最初の製品」と紹介している。
-
主要PCメーカー各社が日本市場向けに発売したAI PCが、会見の会場に並んでいた
-
2025年は出荷ベースで41%がAI PCに切り替わると予測している
なお、2025年のパソコン市場は、2021年以来という高い伸び率が期待されている。最大の要因は2025年10月14日にWindows 10(22H2)のサポートが終了し、セキュリティ更新も止まる予定があることだ。日本ではGIGAスクールの第2期も重なり、特に大きなPC需要が発生するものと見られている。
-
PC出荷台数、2025年は全世界で前年比4%の伸びを見込む。日本ではGIGAスクールの第2期もあり、二桁成長の予想もある
この需要期にインテルが訴求を強めているのも、セキュリティを強化した「vPro」対応のAI PCだ。同社執行役員 技術本部 本部長 町田奈穂氏は、vProの価値を示す事例として、次のようなエピソードを紹介した。
昨年7月のことだが、後に「ブルーフライデー」とも呼ばれる、全世界の多くのWindows PCが史上最大とも言われる規模で一斉にブルースクリーンエラーを起こしてしまった事件を覚えている方もおられるだろう。米国では空港の端末が停止し、飛行機が飛べなくなってしまったなど大問題となった。日本でも大手ハンバーガーチェーン店のレジ端末が終日停止するなどし、世間を騒がせた。エラーの原因はセキュリティソフトのバグであった。
-
2024年の7月19日、全世界でブルースクリーンが発生。日本でも、テーマパークのレストランで会計ができなくなったり、ハンバーガーチェーンが営業停止になったりと、大きなニュースになった。経済的な損失は百億ドル超とも言われた大事件であった
当時、問題を察知したIntel社内のvProチームは、すぐさま対策に動き原因を解析、特定し、エラーを起こしている原因ファイルへの対策を確立し、vPro管理者向けの対策マニュアルを作成した。vProを導入していた空港、交通機関、病院においては、この対策マニュアルにより数時間で先んじての復旧が可能になったという事例があった。この好事例に町田氏は、「とても誇らしい事例になった。AI時代に、ビジネスの現場には様々なリスクがある。優れたPCは、なによりも安心安全が大事。AI PCのvPro対応を発表できたことは喜ばしいことだ」と、vProをアピールした。
不具合と言えば、これはIntelの問題で、昨年秋ごろに、第13/14世代Coreにおいて動作が不安定になる不具合の問題が発覚した。町田氏は、「ご迷惑をおかけした。安心して使ってもらえるよう、全力で取り組む」と謝意を述べるとともに、改めてこの問題の顛末を説明した。問題の原因はCPUの動作電圧の想定外の変動であり、BIOSのアップデートにて新たな制御マイクロコードをあてることで、修正が完了している。また、該当CPU製品の保証期間の延長施策もとったことが報告された。
-
第13/14世代Coreの不具合問題。対策まで時間がかかってしまったことも反省材料だろう
「ゲームするなら、インテルPCで」を強く打ち出す
会見の最後に、同社執行役員 マーケティング本部 本部長 上野晶子氏より、今年のインテルのプロモーション施策の紹介もあった。vPro普及へ向け導入事例紹介の強化や、AI活用のイベントなどを展開するとしたほか、「ゲームを楽しむ」ためのパソコンという側面をさらに浸透させたいという取り組みが紹介された。
-
vProへの注力。導入が進んだことで国内事例が増えている。地場産業での事例も増えており、顧客へ「自社と似た課題を解決した企業」の事例が紹介しやすくなってきているそうだ
-
DX推進が急務のなか、サーバー・ソリューションの事例も積極的に紹介している
-
コンシューマー向けでは、新生活をはじめる若者向けに「#BET ON YOUR FUTURE withインテル Core Ultra プロセッサー~自分の未来に賭けよう~」の展開を開始している
ゲームソフトウェアメーカーとゲーミングPCメーカーの共同で、今年の春から「ゲームするなら、インテルPCで」というテーマでユーザー向けキャンペーンを展開する。キャンペーンの具体的な内容は後日発表とのことなので、期待して待ちたい。
-
今年の春に、パソコンでゲームを楽しむことを訴求するキャンペーンを実施予定。人気ゲームタイトルを抱えるゲームメーカーが参戦。直近だとモンハン新作への期待は非常に大きい
-
パソコンでのゲーム体験向上に、インテルが技術協業から関わっていくスキームを強化する
上野氏は「インテルが、ゲーム会社とゲームPC会社を仲介する役割を担いたい」と、これからも含む展望を述べていた。上野氏はまた、強いゲーム文化があり、そしてまだゲーム機が強い日本でも、今回のキャンペーンを通して「ゲームをPCでという文化をもっと根付かせたい。普段使っているパソコンで、ゲームが楽しめるんだという気づきをもっと増やしたい」と、施策実施にかける意気込みを語っていた。