韓国サムスン電子は日本時間の2025年1月24日に発表したフラッグシップモデルの新機種「Galaxy S25」シリーズだが、日本では従来のNTTドコモやKDDIに加え、新たにソフトバンクが取り扱うことを発表したことが大きなサプライズとなっている。長年Galaxyシリーズを扱っていなかったソフトバンクが、その販売を再開したことは、日本のスマートフォン市場に大きな波乱をもたらす可能性が高い。
薄型の「Edge」だけではなかったサプライズ
毎年1月に、スマートフォンのフラッグシップモデル「Galaxy S」シリーズの新機種を世界発表しているサムスン電子。2025年も日本時間の1月23日に、米国で新製品発表イベント「Galaxy Unpacked」を開催し、新たに「Galaxy S25」シリーズを発表している。
Galaxy Sシリーズは従来、スタンダードモデル2機種と最上位の「Ultra」モデルが投入され、2025年も「Galaxy S25」と「Galaxy S25+」、そして「Galaxy S25 Ultra」の投入を発表している。だが今回はそれに加えて、新たに超薄型スマートフォン「Galaxy S25 Edge」がサプライズとして追加された点が大きな変化といえるだろう。
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サムスン電子は日本時間の2025年1月24日に「Galaxy Unpacked」を開催。新たに「Galaxy S25」シリーズ4機種などを発表している
それゆえGalaxy S25 Edgeには大きな注目が集まっていたのだが、現時点でその詳細は明らかにされておらず、スペックや発売時期も分かっていない。それゆえむしろ今回、サムスン電子がアピールしたいポイントとなっていたのは、ハードウェアよりも「Galax AI」の進化であろう。
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今回の発表で注目を集めた新機軸の薄型モデル「Galaxy S25 Edge」。ただ薄いことと外観を除くと詳細はほぼ明らかにされていない
Galaxy AIは前モデルの「Galaxy S24」シリーズから展開されているものだが、今回は従来のGalaxy AIの機能に加え、グーグルの音声アシスタント「Gemini」を使ったアプリ間のシームレスな連携が可能となっている。レストランを検索して場所を友達にメッセージで送る……といった操作も、Geminiを呼び出して「〇〇というレストランの場所を××さんにメッセージで送って」などと指示するだけでできるようになる。
他にも、時間に応じてユーザーが必要とする情報をパーソナライズして提供する「Now Brief」などを提供。Galaxy AIがユーザーを支えるアシスタントとなり、スマートフォンとAIとの一体化を進めハードだけでは実現できないGalaxyシリーズの新たな差異化要素にしようとしていることが分かる。
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Galaxy S25シリーズは「Galaxy AI」の強化が最大のポイントとなっており、時間に合わせてパーソナライズ化された情報を提供する「Now Brief」などいくつかの新機能を提供している
ただ日本市場に関して言えば、これらより大きなインパクトをもたらしたのは、ソフトバンクが、Galaxy S25シリーズを販売すると発表したことだろう。ソフトバンクはNTTドコモやKDDIと同様、Galaxy S25とGalaxy S25 Ultraの2機種をソフトバンクブランドで販売するとしているのだが、同社は長年サムスン電子製のスマートフォンを扱ってこなかっただけに、今回の発表が大きな驚きをもたらすものであったことは間違いない。
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これまでサムスン電子製端末を長く扱っていなかったソフトバンクだが、Galaxy S25シリーズで久しぶりに販売を再開することが明らかにされている
サムスン電子との蜜月が国内スマホ市場に激震をもたらす
実はソフトバンクとサムスン電子との関係は非常に長く、2015年発売の「Galaxy S6 edge」まではサムスン電子製のスマートフォンや携帯電話を長く販売していた。だがそれ以降、両社の関係性に何らかの変化が生じたようで、以後サムスン電子製の端末を販売していなかった。
であればなぜ、およそ10年ぶりという現在のタイミングで再びサムスン電子のスマートフォンを扱うに至ったのか。Galaxy Unpackedのイベントに訪れていたソフトバンクの専務執行役員である寺尾洋幸氏はその理由について、1つにソフトバンクも力を入れているAIの存在、そしてもう1つに、2024年末に施行された電気通信事業法のガイドライン改正を挙げている。値引きが難しくなってもなお、顧客獲得のため他社のGalaxyスマートフォン利用者を取り込むためには、やはりサムスン電子のスマートフォンを扱う必要があったようだ。
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Galaxy Unpackedの会場で取材に応えるソフトバンクの寺尾氏
サムスン電子は世界シェアトップのスマートフォンメーカーであり、Galaxy S25シリーズのようなフラッグシップモデルだけでなく、ミドルクラスやローエンドなど非常に幅広い端末ラインアップを取り揃えている。ソフトバンクはそのサムスン電子との取引がなくなった一方、その後の競争激化でスマートフォンメーカーの規模縮小や撤退が相次いだことから、サムスン電子の端末を取り扱っているNTTドコモやKDDIと互角に戦える端末ラインアップを揃えることに苦心してきた経緯がある。
それだけにソフトバンクにとっても、サムスン電子との取引再開は競合他社との競争力を高める上で重要な武器となる可能性が高い。実際ソフトバンクはGalaxy S25シリーズの販売にかなり力を入れていくようで、その一端が見えるのが値引き販売だ。
先にも触れた政府のスマートフォン値引き規制によって、ソフトバンクが2024年まで積極展開してきた、「新トクするサポート」などの端末購入プログラムを活用し、1年で返却することでスマートフォンを激安で利用できる施策の展開が難しくなってしまった。現在も激安価格で購入できる端末は、ごく一部に限られているようだ。
だが今回ソフトバンクは、「新トクするサポート(プレミアム)」の適用によって、1年で返却することによりGalaxy S25を実質36円(「早トクオプション」の利用料を加えると2万2036円)で利用できる施策を展開するとしている。新たな政府の規制により、買取価格が大きく下がりがちなAndroidスマートフォンは特に値引きが難しくなっているのだが、Galaxyシリーズは海外での人気が高いこともあって買取価格が比較的高額なことから、これだけの値引きが実現できたようだ。
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ソフトバンクのプレスリリースより。同社はGalaxy S25を、「新トクするサポート(プレミアム)」の適用で実質36円という価格を実現。政府による値引き規制が強化された直後だけに驚きがある
寺尾氏は今後もサムスン電子との関係を今後も継続していきたい姿勢を見せており、両社の関係はより強固なものとなる可能性が高い。だがそれは競合のスマートフォンメーカーにとって脅威となることもまた確かだ。とりわけ事業規模の小さい国内メーカーや、ここ最近ソフトバンクからの販路開拓を積極的に進めてきた中国系のメーカーが受ける影響は非常に大きいと考えられる。
寺尾氏はサムスン電子との取引再開後も、取り扱うスマートフォンを減らすことは考えていない様子だが、一方でメーカー間の競争は促進していきたい姿勢も見せている。それだけに、競合他社がどのような策をもってサムスン電子の動きに対応し、競争力を維持拡大できるかが今後大きな関心を呼ぶことになりそうだ。