俳優の北大路欣也が主演する大人気オリジナル時代劇シリーズ『三屋清左衛門残日録』。これまで放送されてきた7作品が、1月17日から2月27日までの6週間にわたり、東京・丸の内TOEIで1作品ずつ順次上映される。

時代小説の名手である藤沢周平の傑作小説を映像化して2016年から放送されている同シリーズは、東北の小藩で前藩主用人の職を退き、隠居した三屋清左衛門(北大路)の第二の人生を、身の回りに起こる様々な出来事とともに描くもの。周囲から厚い信頼を受ける清左衛門の北大路による説得力ある演技をはじめ、季節感あふれる日本の自然に仮託した心象風景や心理描写を、ぜひ大画面で鑑賞してほしい。

また、今回一挙上映される丸の内TOEIは、この夏に閉館し半世紀以上の歴史に幕を下ろすことが決まっている。「東映城のプリンス」のキャッチコピーでデビューし、『仁義なき戦い』シリーズなど多くの東映作品に出演してきた北大路欣也主演の時代劇シリーズを、スクリーンで楽しむまたとないタイミングだ。

  • 北大路欣也=第3作『三屋清左衛門残日録 三十年ぶりの再会』より

何とも言えない心地よさを醸す「声」

北大路といえば『半沢直樹』や『華麗なる一族』(いずれもTBS)での銀行の頭取役などから、“政財界に君臨するフィクサー”の印象が強い人も少なくないだろう。だが、本シリーズで演じる清左衛門は、そうしたイメージと大きくかけ離れた柔和な老紳士というキャラクターで、これが見事にハマっている。

それを形作る大きな要素の一つが、「声」。ゆったりとした重低音の声色、かつクリアで滑らかな口調の中に絶妙な抑揚があり、これが何とも言えない心地よさを醸している。本人には大変な負担になってしまうが、長ゼリフの場面を延々聴いていたいと思ってしまうほど。親友の町奉行・佐伯熊太(伊東四朗)をはじめ、周囲の人々が清左衛門に相談を持ちかけに来るのは、この声を聴いてまず安心したいのでは…とすら感じる。

基本的には穏やかな話しぶりの清左衛門だが、前藩主用人という要職を務めてきた人物だけあって、いざという場面で見せる迫力も魅力だ。長年にわたる時代劇への出演で培われた剣術シーンはもちろん、身勝手な持論を述べる相手を諭すようにたしなめていたかと思えば「黙らっしゃい!」と一喝するシーンは、視聴するこちらも思わず背筋が伸びる。

先日、NHKで放送された『大河ドラマ名場面スペシャル』で、渡辺謙が石坂浩二の演技を「ものすごく口跡(※言葉遣い。話しぶり。特に、歌舞伎俳優のせりふの言い方。また、その声色=出典:デジタル大辞泉)がいいんです」と表現していたが、それは北大路欣也という役者にも間違いなく当てはまるだろう。

  • 第5作『三屋清左衛門残日録 陽のあたる道』より

多くの人が信頼を寄せて相談にやってくる一方で、問題を抱えながらも誰かに話すことができない人に優しく寄り添うのも清左衛門の人柄が表れる場面だ。弱い立場の人の表情を読み取って事情を察するシーンが、このシリーズには随所に登場する。

顔を見るだけでその人の心が分かる――これが説得力あるやり取りになるのも、北大路だからこそなせる業だ。