「新規上場が遅く、投資家保護になっていない」――。
これは日本の仮想通貨業界でよく聞かれる言葉だ。日本の新規取り扱い通貨は常に遅れており、価格が上がった後でしか売買ができなかったり、機会損失が生まれていたりするという指摘だ。日本で上場する時が価格の天井を迎える時だと揶揄する声まである。
一方の海外ではトレンドを読み、トークンの価格が大きく上昇する前に上場が発表される。
例えば最近ではようやくクロスチェーンのポルカドット(DOT)が日本で上場したが、これも海外では去年8月に、すでにバイナンスで上場している。2020年8月は4ドルほどだったが、2021年3月に44ドルの最高値を更新。日本に上場した2021年5月19日はすでにピークを過ぎて下落していた。
仮想通貨取引所クラーケンの日本法人であるペイワード・アジア(Payward Asia)の千野剛司代表は、新規上場が遅いことが「事業者のビジネス拡大の足かせになっている」と指摘する。新しい通貨の上場がスピーディーに行えないことで、投資家へアピールにつながらず、結果として仮想通貨のイノベーションの恩恵に日本全体で受けられていないという。
千野氏は6月25日に日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の副会長に任命された。JVCEAの会長を含め、理事は各企業の社長から選出されるが、外資から初めての人選だ。千野氏は、コインテレグラフジャパンに対して、海外の情勢にも詳しい理事として「暗号資産(仮想通貨)の新規上場手続きを短縮化したい」と抱負を述べた。
日本で新しい仮想通貨を上場させるためには、JVCEAの審査を通らなければいけない。しかし、JVCEAに書類を提出してから申請が通るまでに、半年〜1年ほどかかってしまっているのが現状だ。
今の仮想通貨業界で1年も経ってしまえば、状況はガラリと変わってしまう。
千野氏によると、海外では新規トークン上場の際にデューデリジェンスなどを行うが、「どんなに長くても数ヶ月」で終了するという。米国ではJVCEAのような自主規制団体が上場プロセスに関与しないという違いはあるものの、日本ではより短くすることは可能だという。同氏は審査プロセスをより効率的に行えば、日本でも1ヶ月で審査を通せると主張する。
実際にクラーケンのグローバル部門では、すでに70近くの通貨を上場させている。千野氏はこれらの通貨を日本にも適用する「プロダクト・パリティ」を目指しているという。
「時間の50%使う」
しかし、なぜこんなにも上場までに時間がかかってしまうのだろうか。
千野氏は「人材不足や必要な経験を持っている人が揃っていなかった」ことで、予定通りに進んでいなかったと分析。現在の日本は新規上場するにはJVCEAが用意する計500項目以上の審査書類を事業者側が埋め、その内容をJVCEAが確認するということになっている。この「確認」に人手が足りずに時間が恐ろしくかかっているという。
実際、企業の社長業をしながら、JVCEAの理事業務などを行うのはとても大変だろう。ただでさえ忙しい自社業務以外になかなか時間が作れないのは想像に難くない。
しかし千野氏は「ここが変わらないとジリ貧だ」と危機感を募らせ、「JVCEAのために常時30%、最大で50%近くの時間を使う」と表明した。新規上場へ取り組む理事が出てくることで、現在の状況を大きく変えられるかもしれない。「JVCEAの他の理事の皆様、そして協会職員の方々と協力して進めていきたい」と意気込みを語った。
セキュリティの目線を高める
仮想通貨の取り扱い通貨数を増やすと同時に、業界に解決すべき懸念はある。
セキュリティだ。
日本はこれまでの経緯から、ハッキングが多発している国だと認識されている。千野氏も「海外からは規制が厳しいにも関わらずハッキングが起きてしまっている国」と見られているとし、投資家を呼び込むためにもセキュリティへの認識を海外並みに高める必要性を指摘する。
例えばクラーケンでは、社員旅行の際には家族にNDA(秘密保持契約)を結んだり、ホテルの平面図を当局に申請したりするなど、セキュリティの目線を高く保っているという。
セキュリティへの取り組みが不十分であれば、投資家への不安につながってしまう。千野氏はセキュリティへの取り組み不足が「相場はいいのに、投資家が戻ってきていない」ことにつながっていると話した。
日本では金融活動作業部会(FATF)の「トラベルルール」への議論もされているが、最近ではあまり進捗が聞こえてこない。こうしたことから、セキュリティを高めるために法令以上の取り組みが必要だろう。
千野氏は「事業者の襟を正すことがセットにならなければいけない」として、協会だけでなく仮想通貨事業者自体も「協会と共に高度なレベルに行かなければいけない」と話した。