2023年2月17日にElectronic Arts(EA)から発売されたハンティングアクションゲーム『WILD HEARTS(ワイルドハーツ)』。「からくり刀」や「傘」といったユニークな武器を使って大型の「獣」と戦うだけでなく、「壁」を作って敵の攻撃を防いだり、ジップラインのような「飛蔓」を設置してフィールドをスピーディに移動したりと、「からくり」と呼ばれるクラフト要素によって、自由で創造的な狩りが楽しめる。
開発を担当したのは「無双」シリーズなどを手がけるコーエーテクモゲームスのスタジオ「ω-Force(オメガフォース)」だ。発売後の反響をはじめ、からくりシステム誕生の経緯、開発でのこだわりなど、同作のディレクターであるコーエーテクモゲームスの枝川拓人氏と平田幸太郎氏に、制作の裏側を聞いた。
発売後の反応は上々。からくりを楽しむ投稿が多数
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、『ワイルドハーツ』発売後の反響を教えてください。
平田幸太郎氏(以下、平田):我々がもっとも届けたいと思っていた「からくり」のクラフトと「狩り」を組み合わせたゲームシステムについて、「独自性があっておもしろい」と言ってくださるユーザーさんが多く、喜んでいます。また、海外でもメタスコアのユーザースコアが高くてうれしいですね。
枝川拓人氏:(以下、枝川):SNSや、YouTubeをはじめとする動画投稿サイトを見ると、ゲームを楽しんでもらっている実感があります。特に、主軸のからくりについてはかなり肯定的な意見が多くて、驚いています。
――発売後は、主にSNSや動画投稿サイトでユーザーの反応をチェックしているのでしょうか。
平田:これまで、自分の作ったゲームはほとんどエゴサーチをしていなかったんですけど、今回はしていますね。『ワイルドハーツ』の開発は長期間でしたし、完全な新規IPタイトルです。確固たる自信を持って発売しましたが、世間に受け入れられるかはまた別の話。我々の感覚がどのくらいユーザーと一致しているのか興味があったからです。
枝川:私はけっこうエゴサーチして反応を調べるタイプです。『ワイルドハーツ』はクラフトの自由度の高さが特徴。からくりを使うと、ゲーム内でいろいろ“悪さ”ができるんです。なので、あれこれ工夫しているプレイ動画を見るのはおもしろいですね。当然、「こういうプレイをするだろうな」という想定は開発中からしていますが、それを超えるプレイヤーは現れるでしょうし、出てきてほしいと思っていました。
――印象に残っている投稿はありますか?
平田:『ワイルドハーツ』は最大3人で協力プレイできるのも特徴で、普段単独で動画配信している人が楽しそうに仲間と遊んでいるのを見ると「作ってよかった」と思います。からくりの設置について「なんでそこに置くんだよ」みたいなやりとりもあっておもしろいですね。
枝川:狩場で「幕屋」と呼ばれるテントを空中に設置して、そこからジップラインの「飛蔓」で移動するなど、みなさんおもしろい遊び方をしてくださっています。
平田:からくりを入れておくと、獣が近づいたときに自動でそれを投げてくれる「荷弾き」を何台も設置しておき、獣をおびき寄せてダメージを与えて、一度も触れずに倒す動画もおもしろかったですね。当然、システムとしては可能なんですが、実際に動画を見ると、「わりとみんなめちゃくちゃやるな」と楽しませてもらっています。
――社内からの反応はいかがでしょうか。
枝川:社内では、発売前のほぼ完成している状態のゲームを休み時間にプレイしている人を見かけました。仕事でゲームを開発しているからか、休み時間に自社のゲームをする人ってあまりいないんですよ。
平田:他社のゲームを休み時間にプレイする人は多いんですけど、自社のゲームはどうしても仕事感が出てしまうので、かなり稀なケースです。それでも遊んでくれたということは、作品の魅力が伝わったのかなと。
テストプレイで見つかった課題をもとに、「食事」は大幅に仕様変更
――『ワイルドハーツ』開発の経緯を教えてください。
平田:「ω-Force」ブランドのゲームではおそらく「無双」シリーズが有名だと思うんですが、『ワイルドハーツ』は新しい柱を作るべくスタートしたプロジェクトです。かつて『討鬼伝』という狩りゲーを作ったノウハウが開発に残っていたこともあり、今だからこそできるハンティングアクションゲームを作ろうと動き出しました。
――EAと組んだのはなぜでしょうか。
平田:タイトルを世界中のゲーマーに届けるために、グローバルに強いパブリッシャーと組みたいと考えていたので、EAさんと一緒に制作することにしました。どうすれば独自性のある狩りゲーを作れるか、ビルドを作っては、直してと、試行錯誤を繰り返しているうちに、クラフトしながら獣と戦うひな形のビルドができたので、これをEAさんにプレイしてもらい、「一緒にやりましょう」と言っていただいたのが経緯です。
――どのような役割分担で制作したのでしょうか。
枝川:基本的には、開発を「ω-Force」が担当し、国内外の販売をEAさんに担当していただきました。ただ、ほかにもEAさんには、海外のローカライズやオンラインのサーバーなどをお願いしています。
また、アドバイスもたくさんいただきました。開発の舵取りはこちら側で行いますが、我々が開発を進めている間に、EAさんがテストを実施してくださって、随時「こんな結果が出た」と教えてくれる感じです。
平田:EAさんとつながりのあるゲームユーザーのコミュニティでクローズドなテストプレイをしてもらって、集約してくださった意見を開発に役立てることもありました。
――EAから届いた意見の中で実現したアイデアはありますか?
枝川:アイデアをもらうのではなく、課題をもらうイメージですね。「ここがよくない」という意見に対して、こちら側が対応を考えます。
平田:印象に残っているのは、食事ですね。
枝川:食事はユーザーの意見から出てきた課題をもとに、当初の予定から大幅に仕様を変えました。最初は、スタンダードに「焚き火」で料理を作り、食べて、バフを得るシステムだったんです。しかし、シームレスに遊べる狩りのテンポ感と合わなかったので、どこでも、生でも、加工しても、食べられる現在のスタイルに変更しました。いい改善になったと思います。
ディレクター2人だからこそできた厳しいチェック
――トータルの開発期間を教えてください。
平田:4年半くらいですかね。2018年末ごろにスタートしました。当然、期間が長ければそれだけコストもかかるので、やらせてくれた部署にも助けられました。
枝川:最近はゲーム開発も長期化してきていますから、大型タイトルであればもっと長いケースもあるでしょう。新規IPであることを考えると、妥当な期間だと思います。
――途中でコロナ禍が訪れたと思いますが、開発にはどのような影響がありましたか?
平田:開発中のマイルストーンとなるバージョンがいくつかあるんですが、ちょうど節目のタイミングで在宅勤務に切り替わりました。離れた場所にいるメンバーとコミュニケーションを図りつつ作業するのは慣れていませんでしたし、難しかったですね。
枝川:移行時期は大変でしたが、結果的にハイブリッドな働き方が定着しました。コロナ禍を経たことで生まれた会議の方法や連絡の取り方の変化は、プラスにつながった部分もあります。
平田:全体的にはだいぶプラスですね。
枝川:大規模なチームだと直接的なコミュニケーションに限界があるので、チャットやビデオで進める方法は出社時でも効率的。子育て世帯でもバランスとりながら働けるようになりましたし、多様な働き方ができるようになりました。
平田:全社的な課題だったこともあり、インフラ整備は一気に進みました。開発環境は一新されたと思います。
――それ以外に開発で苦労したことはありますか?
平田:『ワイルドハーツ』では、私と枝川が2人ともディレクターなんですけど、この「ダブルディレクター」がお互い初めてだったので、私にとっては大きなチャレンジでした。
タイトルの規模によっては「ダブルディレクター」もあるんですが、少なくとも開発が始まった4年半前の当社ではあまり一般的ではありませんでした。2人とも当初「ディレクターは1人がいい」と強く思っていました。
――意見の食い違いなどが結構あったのでしょうか。
平田:ところが、枝川との相性が良すぎて、意見の食い違いはほとんどありませんでした。社内でもっともうまくいった「ダブルディレクター」だったんじゃないでしょうか。枝川がどう思っているかはわかりませんが(笑)。
枝川:最初はお互い「ダブルディレクター」が嫌だったんですが、結果的にはよかったと思っています。やはり規模が大きいタイトルだと、チェックできる範囲が限られてしまうので、どうしても見きれない部分がありました。そこを信頼できる人に任せられるのは大きかったし、役割を分担することで、お互いの担当外の部分についてユーザー目線で意見を言えるメリットが大きかったですね。
たとえば、今回、戦闘部分については平田に任せていたのですが、そこには好き放題言えるんです。反対に、自分が管轄していると、開発の経緯を知っているからこそ言えないこともあるので、お互いフラットな目線で、厳しくチェックできたのはよかったと思います。
平田:個人的にはモチベーションも上がりました。一番身近なライバルだと思っているので、1人だとサボりがちな部分もしっかりやれたと思います。最初に「お互い不甲斐なかったら言いましょうね」と決めていたので、そのプレッシャーがいい方向に働きましたね。
――開発でもっとも力を入れた部分を教えてください。
枝川:狩りゲーは、何度も同じ相手と戦うのが特徴のゲーム。でも、本当に同じことばかりだと飽きやすいですよね。繰り返しの中でも、ちょっとずつ変化させられる要素を入れたいと思っていました。
『ワイルドハーツ』は、ユーザーが独自の狩場を構築し、変化を作れるのがおもしろいところ。そこに一番力を入れましたし、実際ユーザーさんにも受け入れてもらえて、楽しんでもらえていると思います。
平田:戦闘部分はかなり力を入れています。個人的に好きなゲームがPvPなので、そんな自分でも楽しめるPvEを作りたいと思っていました。獣との真剣勝負の中で、武器の個性、獣の個性、からくりを使ったときの戦況の変化、マルチプレイなど、奥深い戦闘の楽しみを作れればいいなと開発しています。さまざまなシーンで変化する難易度やチャレンジを楽しんでほしいですね。
ゲームの転換点になった「このゲームにはマジックがない」のひと言
――ゲームのキモとも言えるからくりはどのようにして生まれたのでしょうか。
平田:途中作っていたバージョンをプレイしていたときに、開発メンバーの1人から「このゲームにはマジックがない」と言われたんです。『ワイルドハーツ』だからこそできることがない、と。それがめちゃくちゃ悔しかったんですよね。
そこからいろいろ考えて、プレイヤーが何かを生み出す要素を取り入れようと、最初は「持っている小さい弓矢を地面に放つと樹が生える」システムを導入しました。
すでに、獣が自然の力を身につけて周囲の環境を変えていく設定はあったので、その力を奪うイメージです。生み出した樹で獣の突進を止めたり、転倒させたりといった仕様でした。そのあと、生み出す面でもっと遊びがあったほうがいいと枝川と話し合った結果、からくりによるクラフトと狩りゲーを組み合わせた内容になったんです。
枝川:「狩場を構築する」コンセプトは元々あって、戦闘にも取り入れようとなったのが、そのタイミングですね。ゲームが生まれ変わった瞬間です。
また、それ以外にも、バージョンごとで社内に意見を求めることはあります。やはり、みんなゲームを作っている人たちなので、哲学を持っているんですよね。その哲学に基づいた意見をいろいろと言ってくれます。そこからブラッシュアップにつながる部分もありました。
平田:社内の注目度も高いタイトルだったので、質問や意見の数は多かったですね。普段と比べて2倍くらいはあったんじゃないかな。チーム内でも「これがおもしろくない」「あれをこうしたい」みたいな意見はかなり出ました。
みんながアツくなれる大筒の「ビーム」
――『ワイルドハーツ』には8種類の武器が用意されています。ムチのようにもなる「からくり刀」や、5つの形に変形させて使う「変形棍」など、武器にもからくりの要素が入っているのがカッコいいと感じたのですが、それらはどのような経緯で制作されたのでしょうか。
平田:やっぱり武器にも驚きがほしかったんですよ。からくり刀も最初はただの日本刀だったんですが、それだけだとおもしろくないですし、そもそも日本刀では獣に勝てないと思ったため、からくりの要素を取り入れました。
――一方で「大筒」は、SFに出てくるようなビームを放ちます。『ワイルドハーツ』の和の世界観と異なるような気がしたのですが、これはどのように生まれたのでしょうか。
平田:キャノン系の武器は入れたかったんですよね。ビームが出たら、みんな喜ぶでしょうと(笑)。もちろん、大地に流れる「天つ糸」のエネルギーを吸い取って放つという設定があるので、世界観は崩していません。
あとは、弾を単調に撃っているだけだとおもしろみがなかったので、何かゴールがほしかったんです。そして、そのゴールは、みんなが「うおー!」とアツくなるものにしたかった。それでレーザーを撃てるようにしました。
――お気に入りの武器はありますか?
枝川:武器はどれも特徴があっておもしろいんですけど、1つ挙げるとするならば「飛燕刀」。スタイリッシュに立ち振る舞えるだけでなく、直感的に操作できるところに「ω-Force」らしさが出ています。
平田:インタビューで聞かれるたびに変わっているかもしれませんが、私は「傘」です。シビアなパリィをベースに作っているので、うまければうまいほど強くなるのですが、使いこなせないと最弱の武器になってしまいます。プレイヤーの操作スキルにあわせてどんどん強くなるので、最終のマスターを出す直前まで慎重に調整していました。
発売後は、ユーザーから「難しすぎる」という意見がけっこうあったんですが、それを見てホッとしました。理論上は傘が最強だと思っているので、最強の理論値にたどり着きたいテクニカルな操作を求めるプレイヤーに使ってほしいですね。モーションの数も多いので、見ていても飽きない武器にできたと思っています。
――また、『ワイルドハーツ』のフィールドは起伏が激しく、建造物の多さが印象的です。からくりを使って狩場を構築するにはやり応えある作りだと思いますが、大型の敵と戦うバトルアクションには向いていないのではないでしょうか。
枝川:当然、アクションするうえでは、平たんなステージのほうがやりやすいですし、ユーザーがそれを望んでいるのもわかっています。
ただ、繰り返しプレイする狩りゲーにおいて、戦いやすい地形しかないことは、必ずしもプラスにはならないと思いました。なので、ある程度ハプニング的な要素として、ステージに起伏を入れることにしたんです。
また、和の世界観を表現するためには、文化的な建造物などを配置する必要性がありました。最初は“日本らしい自然”を出していけば、世界観を表現できると思っていたのですが、どんなに日本の植物を置いても、それだけだと日本じゃないように見えてしまう。やはり文化を感じてこそ和を感じるのだと再確認しましたね。そのため人工物も配置したんです。
平田:獣のモーションを設定するのはとても大変でした。もしかすると、今なおユーザーさまにご迷惑をおかけしているかもしれません。
もちろん、課題は今後のアップデートで改善していきますが、枝川が言っていたように、世界への没入感や繰り返しプレイすることで定着する思い入れのようなものは重要だと思っています。
たとえば「この建造物の隙間に助けられた」「起伏のおかげでからくりを設置する余裕が生まれた」といったシーンや、逆に「起伏のせいでからくりをうまく設置できなかった」といったシチュエーションが生まれることで、敵のモーションに対応する予定調和のプレイだけでなく、小石につまずくようなイレギュラーな体験を味わえる効果もあったのかなと。
――最後に、ユーザーにメッセージをお願いします。
平田:『ワイルドハーツ』は新機軸のハンティングアクションを目指して開発しました。新しい体験をしたい人、ハンティングアクションが苦手だった人なども含めて、ゲーム好きな幅広いユーザーに触ってほしいと思っています。
枝川:ソロプレイもおもしろいんですが、マルチプレイの楽しさは格別。みんなで遊ぶのが好きな人は、プレイして損はないと思います。人数が増えるほどからくりの相乗効果が出るので、ぜひ友人を誘ってプレイしてみてください。
――ありがとうございました!