数々の作品で独特の存在感を放ち、見る者を魅了する稲垣吾郎。11月4日に公開を迎えた映画『窓辺にて』では、「ここまで役作りをしない役はないのではないか」と言うほど、自然体で主人公を演じたという。稲垣にインタビューし、役と重なる自身の人生観や、新しい事務所で新たな一歩を踏み出してから5年経った今の気持ちを聞いた。

  • 稲垣吾郎 撮影:蔦野裕

本作は、『愛がなんだ』『街の上で』などの今泉力哉監督によるオリジナル作品で、創作と恋愛を軸に描く大人のラブストーリー。妻の浮気を知るも何も感じない自分に悩むフリーライター・市川茂巳を稲垣が演じ、茂巳の妻・紗衣を中村ゆり、高校生作家・久保留亜役を玉城ティナが演じた。

稲垣は「今泉監督の作品はすごく好きで、以前から興味ありました」と言い、自分も参加したいという思いがあったと明かす。

「きっと自然に今泉さんの世界に溶け込むことができるのではないかなと思っていたかもしれません。割と前向きに考えてしまう男なので。映画は監督の色がとても出るもの。好きな映画があると、自分も出てみたいなという気持ちになって、この現場に俳優として呼ばれてお芝居したらどうなるのかよく考えるんです。今泉さんの作品もそういう風に見ていたので、今回参加できてうれしかったです」

今泉監督からは「ナチュラルな芝居」を求められたという。

「今泉監督は表現を最小限に抑えてほしい方。お芝居お芝居して見得を切ったり、型にはまった芝居をするのを嫌う方なので、爪痕を残そうとか、うまく演じようとか、そういうことはせず、役の気持ちを表現しすぎないように。今泉監督のスケール感にチューニングを合わせた芝居をするというのは、すごく面白い体験でした」

続けて、「より繊細な演技が求められましたが、繊細な演技をしようとするとおかしいし、お芝居って難しいですよね」と笑いながら吐露。「でも、書かれていることを真摯に受け止めてセリフを言うと、そう見える。それが監督の脚本のすごいところだと思います」と今泉監督の脚本を称えた。

今泉監督は稲垣をイメージして主人公・市川茂巳を書いたと話していたが、稲垣も「自分と重なり、感情をすごく理解できた」と言い、「彼がしゃべる言葉に共感を持つことができたので、お芝居しているようでしてない、そこに到達することができました」と手応えを口にする。

市川との共通点として「冷めているところ」を挙げ、「あまり人に期待しない。そして、すべてを受け止める。冷めているというより、ちょっとカッコつけているというか、斜に構えるところはもう直らないですよね」と説明。

「みんなが熱くなっていると急に冷めちゃったり、本当に悲しいときこそ悲しいと言えなかったり。無理に天邪鬼にやっているつもりはないですけど、悲しいときほどすっと冷めてしまう。自分でもよくわからないですが、人は結局、個人なのかなと。その中でほんの一瞬でも相手と心を通わせて生まれるものがあったら、その記憶でずっと生きていくこともできる」と語った。

  • (C)2022「窓辺にて」製作委員会

また、「相手に依存はしないように。『相手に期待をしない』というのが僕の座右の銘なのですが、それはとても大事なことだと思っています」と座右の銘も紹介。

「相手に期待しすぎたら、その期待通りにならなかったときに苦しい。この作品も、浮気したら普通怒るでしょ? というのが一般論としてありますが、普通って何? って。相手に期待しすぎないというのも、優しさなのではないかなと思います」と話した。

冷めた感じや相手に期待しないという考えは、子供の頃からそうだったという。

「子供の頃から芸能界にいたので、いろんなことに動じない、ショックを吸収できる心になったのかもしれません。もちろん相手と分かり合っていくことも大切なことだと思いますが、分かり合っているつもりでいいのかなと。そういう僕の人生観とこの作品は重なるところがあって、共感できました」