リコーは、富士通の100%子会社であるPFUの80%の株式を取得し、連結子会社化すると発表した。取得金額は840億円。PFUの社名はそのまま残し、石川県かほく市のPFUの本社などは維持。富士通は20%の出資比率を持つことになる。

リコーでは、オフィスサービス事業を成長加速領域とし、2025年度までの成長投資額として約2,000億円を計上。そのなかで、日本と欧州のオフィスサービス、デジタルサービスを支えるエッジデバイスなどへの投資を重点領域としていた。

一方、富士通では、ソリューション・サービスを軸としたテクノロジーソリューション事業をコアビジネスと位置づける一方で、ハードウェアが中心となるユビキタスソリューション事業や、半導体などのデバイスソリューション事業はノンコアビジネスと位置づけ、これまでにもPC事業や携帯電話事業をカーブアウトさせてきた経緯がある。PFUのビジネスもユビキタスソリューション事業に含まれ、事業再編の対象となっていた。

  • HHKBとScanSnapのPFUを買収したリコー、成長加速を見通すオフィスデジタル化

    今回の買収の概要

富士通とは以前から関係、1年前からPFUとの連携模索

4月28日に行われた会見で、リコーの山下良則社長は、「リコーは、デジタルサービスの会社への変革を目指しており、その上で、顧客価値を高めていくために4つの領域を定めている。今回のPFUの子会社化では、ワークフローのデジタル化、ITインフラの構築、現場のデジタル化という、そのうちの3つの領域を強化することができる。ワークフローのデジタル化では、PFUの世界トップシェアのスキャナーが、ドキュメントの入口となり、ワークフローのデジタル化と現場のデジタル化を促進できる。また、PFUのマネージドセキュリティサービスやマルチクラウド構築によるインフラカスタマサービスと、リコーが国内で展開する複合機(MFP)をベースにしたITインフラの構築支援事業は、お互いに補完する関係にある。ITインフラの構築において、ライトワンマイルをカバーでき、お客様にとってかゆいところに手が届くサービスを提供できるだろう。そして、産業用コンピュータでは、PFUは21%のシェア、リコーは11%のシェアを持ち、あわせると国内でナンバーワンになり、現場のデジタル化を促進できる」と語る。

また、「富士通とは、以前から連携した形で顧客価値提供のビジネスを行ってきた経緯がある。富士通が20%の出資を維持することで、PFUとのシナジー、リコーとの関係強化を見込んでいる。富士通が目指すDX企業への変革、リコーが目指すデジタルサービスの会社への変革を実現するために、これまで以上のアライアンス構築を目指したい」とした。

  • リコー 代表取締役社長執行役員の山下良則氏

山下社長は、デジタルサービスの会社への変革に向けて、エッジデバイス領域にも着目。約1年前から、シェアと技術力を持つPFUとの連携を模索しはじめていたという。

一方、同じく28日に行われた富士通の決算発表の席上で、同社の時田隆仁社長は、PFUの株式売却について発言。「PFUは、富士通のなかでしっかりとした位置を占める大事な会社であり、イメージスキャナーやコンピュータプロダクト、サービスを提供してきた。だが、富士通はDX企業に変わるという方針のなかで、ソリューション・サービスを軸として、よりグローバルにビジネスを展開していく方向に歩みを進めている。そうした動きが、PFUの今後の歩み方に適しているのかを考えてきた。リコーはデジタルサービスを中核として、エッジ領域のプロダクトやサービスを持ち、PFUとの親和性は高いと考えている。PFUにとってもいい組み合わせであり、富士通にとってもエッジの領域に力を持つリコーと協業していくことで、エンド・トゥ・エンドでソリューションを提供し、顧客に新たな価値を届けられる。PFUのリコーグループへの参画を機に、リコーとの国内での協業も進めたい」と述べた。

  • 富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

また、PFUの長堀泉社長は、「リコーグループは、従来から、国内、海外のスキャナー販売や国内の保守事業などにおいて、PFUの重要なパートナーであり、技術力や販売・保守網を高く評価してもらっている。リコーグループの一員となることで、多くのシナジーが見込まれ、PFUの成長とともに、リコーグループの発展に寄与できると考えている」とのコメントを発表している。

PFUは、スキャナーを中心としたドキュメントイメージング事業、国内ITサービスを提供するインフラカスタマサービス事業、産業用コンピュータによるコンピュータプロダクト事業に取り組んでおり、売上構成比はそれぞれ40%、45%、15%となっている。

  • PFUの事業領域と、リコーの価値提供領域の位置づけ

また、PFUは約380億円の現預金などを保有しており、健全な経営にも定評がある。リコーの山下社長によると、PFUの企業価値は820億円と試算されるという。

リコーでは、PFUの社名の維持だけでなく、世界ナンバーワンのスキャナーをはじめとしたPFUが持つ競争力が高いビジネスはそのまま継続する考えを示し、さらに、両社の人材交流を積極化させる考えも明らかにした。

リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニットプレジデントの大山晃氏は、「リコーはMFPで全世界に約400万台の顧客基盤があり、PFUのイメージスキャナーも全世界400万台の顧客基盤がある。両社の顧客ベースは、多少は重なっているが、オフィスを中心に顧客を持つリコーと、業務現場とホームの顧客が多いPFUが組み合わせることで、デジタルサービスを提供できる領域が広がる。また、リコーは、RSI(RICOH Smart Integration)プラットフォームを展開しており、その上で様々なアプリケーションが利用する形で、デジサルサービスを提供している。PFUはOCRに代表されるスキャニングソリューションを持っており、リコーが進めるワークフローのデジタル化におけるインプットデバイスとして、スキャナーや関連ソフトウェアは魅力的である。リコーのMFPでは扱い切れなかったドキュメントを読み取ることが可能な新たなエッジデバイスが加わることで、RSIの活用領域が拡大する」と発言。「ナンバーワンのエッジデバイスと、ワークフローのデジタル化の能力、ITサービスの提供能力を駆使して、お客様の『はたらく』に寄り添ったサービスが提供でき、ワークフロー全体で収益を高めることができる。ITマネージドサービスを強化することができ、ストック型のビジネスを拡大できる」とした。

  • リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニットプレジデントの大山晃氏

リコー、サイボウズ、PFUを揃えて新たなワークフロー提案

リコーでは、4月27日に、サイボウズとの提携を発表しており、リコーブランド版Kintoneが、2022年10月から発売されることが明らかになっている。リコー、サイボウズ、PFUとの連携によって、新たなワークフローソリューションの提案が可能になる点も見逃せない。

たとえば、手書きの納品書を起点としてたワークフローを構築する場合、多様なサイズや紙種を一度に正確に読み取ることのできるPFUのイメージスキャナーで、紙の情報をデータ化。リコーブランド版Kintoneで、ローコードツールとしての特徴を生かして、現場の社員が構築した納品書仕分け、納品確認、検収承認ワークロフローと、社内の購買システムを連携してプロセスをデジタル化。さらに納品書の自動保存をDocuWareと連携させることができる。そして、これらをRSIの上で稼働させることで、柔軟な運用が可能になる。

  • リコー、サイボウズ、PFUの連携で可能となるワークフローの例

リコー コーポレート上席執行役員 リコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントの中田克典氏は、「MFPは、ドキュメントを入れると、一度紙をターンしてスキャンすることになる。その際にジャムりそうになった場合には止めるという動作を行う。それに対してPFUのスキャナーは、直線で動作するため読めなかった場合には一度流してしまうという構造になっている。納品書などのオリジナルの原稿を傷つけずにスキャンするという形で、ハードウェアやソフトウェアを設計している。A8~A3判までのサイズを、上下左右バラバラにスキャンしても読み込める。その点では、複合機にはない能力を発揮できる。将来的には、こうした技術をMFPに展開できることにも期待している」と述べた。

  • リコー コーポレート上席執行役員 リコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントの中田克典氏

また、山下社長は、「日本、イタリア、スペインといったデジタル競争力が低い国では、スキャニングのボリュームが10~14%程度増加している。それに対して、米国や北欧では3~5%程度下がっている。デジタル化が遅れている国はたくさんある。当面、スキャナー需要はある。横ばい以上に増えていくだろう」と述べた。日本では、コロナ禍でのハイブリッドワークの進展とともに、改正電帳法の施行などによって、デジタル化へのニーズが高まると想定される。そうした点でも、リコー、サイボウズ、PFUの組み合わせによるデジタルサービスの実現は、大きなビジネスチャンスが生まれることになりそうだ。

リコーでは、ワークフローのデジタル化において、2025年度に500億円のビジネス創出を計画しているほか、グローバルのITサポート&サービスの事業規模を、2025年度に2,000億円規模に拡大する計画を打ち出しており、ここには、PFUおよびサイボウズとの連携が重要な意味を持つ。

  • 連携のよって創出されるビジネス規模の見通し

PFU子会社化で見込む3つのメリット、そしてHHKBの行方

リコーは、今回のPFUの子会社化によって、「お客様のドキュメントワークフロー変革を支援するリコーらしいデジタルサービスの展開」、「国内におけるITマネジメントサービス機能の強化」、「産業用コンピュータ事業でのシナジーによる安定収益の創出」の3点においてメリットがあるとする。

「お客様のドキュメントワークフロー変革を支援するリコーらしいデジタルサービスの展開」では、特徴あるエッジデバイスと業務アプリケーション、クラウドプラットフォームを組み合わせて提供することで、ストックビジネスの拡大を目指す。業務用スキャナーの強化により、経理業務や申請業務、窓口業務などで発生する「サイズが不揃いな伝票・帳票」や「ノンカーボン紙の申込書」、「免許証・ID などのカード」といった、既存の複合機では対応が難しい特殊なドキュメントへの対応が可能になる。これにより、オフィス領域に留まらず、医療機関や公的機関の窓口業務、金融機関や企業のバックヤードにおける各種書類の処理業務など、より専門的な領域に対して、価値提供が可能になる。様々な顧客接点を持つリコーの強みを活かして、今後も継続的にデジタル化のニーズが見込まれる分野にビジネスを拡大していくという。

また、PFUの既存ユーザーに対しても、リコーのAI-OCRソリューションやDocuWareに代表されるCSP(Contents Service Platform)などとの連携を提案し、業種や業務ごとのワークフローにマッチしたデジタル化を実現するという。さらに、将来的には、RSIに蓄積したデータを適切に活用して、より付加価値の高い新たなサービスの創出に取り組むという。

2つめの「国内におけるITマネジメントサービス機能の強化」では、デジタルサービスを支える専門スキル人材の拡充により、顧客のIT環境のサポート能力を強化し、円滑な事業運営を支援する。とくに、PFUが得意とするマルチクラウド環境の構築や運用、セキュリティサービスなどのITマネジメントサービス、IoT機器の運用サービスなどを、国内販売会社であるリコージャパンが展開する全国のサポート網と組み合わせることで、オフィスサービス事業の拡大を図るという。

そして、「産業用コンピュータ事業でのシナジーによる安定収益の創出」では、PFUのコンピュータプロダクト事業と、リコーのエレクトロニクス事業との連携によって、生産、購買、開発面でのシナジーを創出し、コスト競争力を高めるとともに、現場のデジタル化を進める新たなエッジデバイスの開発を目指すという。さらに、リコーとPFUの製品、サービスや技術、ノウハウ、顧客基盤を活用して、さまざまな業種における現場のDXを加速するという。

なお、PFUのHHKB(Happy Hacking Keyboard)の今後の事業展開については、リコー コーポレート上席執行役員 リコーデジタルプロダクツビジネスユニットプレジデントの中田克典氏が説明。「HHKBには、熱烈なファンがいることを理解しており、実際に使ってみて、使いやすいと感じた。キーボード市場の年間成長率は8%程度であるが、PFUのキーボードは14%の成長率となっている。オフィス以外にも、在宅勤務をしているビジネスパーソンにも利用されており、これは重要なエントリーポイントになる。PFUは、世界中でキーボード事業を展開しようと考えている。キーボード事業は大切にしていく。これも楽しみな事業である」などとした。