Windows 11 バージョン21H2やWindows 11 Insider Previewの更新も気になるところだが、今回はインスタントメッセンジャーについて考えてみたい。Windows 11が登場した当初、タスクバーの「チャット」を開くと、古いSkype ID(現Skype名)でつながっていた知人の名前が列挙された。
筆者はMicrosoftがSkype.comを買収する以前からSkypeを使用しており、買収後はMicrosoftアカウント(当時はWindows Line ID)と連携させている。さらにMicrosoftアカウントとAAD(Azure Active Directory)アカウントの同一メールアドレス重複回避に伴い、outlook.jpのMicrosoftアカウントを取得。Skypeはそのまま使用していた。
このようにメールアドレスの移行でトラブルが発生するのは、いわば「Microsoftあるある」でもある。「そのうち改善されるだろう」と高をくくり、Windows 11の「チャット」機能を使用せずに、本誌編集者との連絡にはSkypeを継続して使っていた。ある日、Skype IDとMicrosoftアカウントのひも付けを再設定すれば改善すると考えたのだが、設定項目は見当たらない。加えて本稿の画面撮影用に、Windows 11の「チャット」を有効にしてウィンドウを開くと様子が変わっていた。当初列挙されていたWindows Live Messengerの連絡先が、個人用Microsoft Teamsベースに切り替わっていたのである。
2017年3月にローンチしたMicrosoft Teamsは、組織向けコミュニケーション&コラボレーションツールだ。チャットをはじめ、オンライン通話&オンライン会議など多くの機能を備えている。コロナ禍によって、企業や従業員同士のコミュニケーションツールとして瞬く間に広まったのは周知のとおりだ。
そして、もともとは予定外だった一般ユーザー向け&無償版のMicrosoft Teamsを2018年7月に発表。2020年6月にはモバイル版Microsoft TeamsにてMicrosoftアカウントをサポートし、同年11月にはMicrosoftアカウントをサポートするパーソナル機能に対応。2021年5月には、個人向けMicrosoft Teamsをリリースしている。
筆者は当初「Skypeを廃して利用者を個人用Microsoft Teamsに誘導する」と思っていたのだが、その後もMicrosoftはSkypeの機能強化を重ねてきた。現時点でMicrosoftは「2つの個人向けコミュニケーションツールを提供」している状態だ。
古くはWindows XPの標準アプリだったWindows MessengerからMSN Messenger、Skypeへの段階的移行、法人ユーザーもSkype for BusinessとMicrosoft Teamsの融合を経て現在に至っている背景を踏まえると、Microsoftの対応に不満があるわけではない。だが、冒頭で述べた仕様変更は、消費者にもMicrosoft Teamsを周知したいというMicrosoftの意向もあるのか、正直なところ腑(ふ)に落ちない。
Microsoft Teamsは現在、Microsoft製品群の中でも注力されているソリューションの1つだ。個人用Microsoft Teamsのインフラを再整備し、Skypeから一気に移行するのは同社の潜在能力からすれば容易だろう。ただ、Microsoft 365ロードマップを見ても、その気配はない。蛇足だが、Microsoft 365ロードマップをSkypeは登録しておらず、買収当時の独立性を継続しているようだ。
また、MicrosoftはSkypeのMAU(月間アクティブユーザー)数を明示していない。確認できるのは、2013年1月時点で5,000万人の同時アクセスユーザーを確認したとの発表程度。Microsoftはコロナ禍のコミュニケーション需要増に応じて、Skypeの利用をうながし、当時のWindows 10にSkypeのオンライン通話機能を「Meet Now」として連携させたものだ。
一説にはSkypeのMAUは数億人を数えるとの調査もあるが、インスタントメッセンジャーで重要なのはアクティブユーザーだろう。筆者はWindows 11の「チャット」をメインコミュニケーションツールにしたいのだが、自分の都合で多数の知人に移行を求めるのは現実的ではない。さらに、メモリー消費が激しい「メモリーイーター」のMicrosoft Teamsをインストールしてくれというのも強引だ。法人環境においては、Skype for Businessの終了によって「Skype」のブランド構築にリソースを割く必要はなくなった。MicrosoftがSkypeへの注力を続けつつMicrosoft Teamsの価値を高めようとしているのは、消費者の混乱を招いているのではないだろうか。
著者 : 阿久津良和
あくつよしかず
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