パナソニック デザイン本部は、未来のくらしの豊かさを考える企画展「Aspect」を2024年10月22日~27日まで開催した。そのなかで、同社が取り組む「VISION UX」の内容を初めて対外的に公開した。「VISION UX」は、「10年後のありたい姿」を示したもので、12本の映像を通じて、家電メーカーの枠を超えた「未来の理想像」を提案している。
今回の企画展「Aspect」は、日本最大級のデザイン&アートフェスティバルである「DESIGNART TOKYO 2024」への出展という形で開催したものだ。
同フェスティバルは、東京の各所を舞台に、国内外のデザイナーやアーティストが参加し、様々な作品やプロジェクトを、ギャラリーやショップ、公共スペースなどに展示。メイン会場はなく、表参道や外苑前、原宿、渋谷、六本木、広尾、銀座、東京周辺の約100会場に、約300のクリエイターやブランドが参加した。
パナソニックでは、理美容家電の体験型ショールームである表参道の「Panasonic Beauty OMOTESANDO」で展示を行ったほか、同じく表参道にあるパナソニックのデザインスタジオ 「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」のサテライト拠点において、FLFのこれまでの取り組みを展示した「FLF EXHIBITION #00 ARCHIVE – 2024」を同時期に開催した。
10年後のありたい姿を描く「VISION UX」
対外的には初公開となったVISION UXは、2021年から、同社デザイン部門の社内活動としてスタートしたもので、膨大なリサーチから得たインサイトをもとに、「自分、大切な人、地球を思いやる行動が広がっていく世界」を目指し、10年後のありたい姿を描いたものになっている。技術起点や製品起点の発想ではなく、8人のデザイナーを中心に議論を行い、様々な経験を持った人材が参加するなか、生活者起点で未来を描いているのが特徴だ。また、家のなかの空間だけでなく、都市や社会にも枠を広げた内容となっている点も、パナソニックの立場としてはユニークな取り組みだ。テーマや内容は、毎年議論を繰り返して更新したり、追加したりといったことが行われている。
同社では、VISION UXの取り組みについて次のように説明する。
「パナソニックは、お客様のくらしを豊かにすることを目指し、高品質な商品の開発に邁進してきた。だが、物質的な豊かさは得ることはできたものの、近年の環境問題など、既存事業では解決しきれない膨大で複雑な課題に直面している。『10年後、どのような未来を生きたいか?』という自らの意思や熱量を大切にし、現在の事業を超えて、北極星となるくらしのビジョンが必要であると感じて開始したプロジェクトである。VISION UXでは、家庭、職場、地域コミュニティにおける様々な理想のくらしを描き、中長期の事業開発やブランド発信にもつなげていく」
Donna Haraway氏が提唱する「Becoming with(共-生成)」という概念も取り入れ、人間は不完全な存在ということを前提に、人と自然、生物が関わり合い、人間が目を向けてこなかった存在にも気づき、行動を工夫していく提案も行っているという。
VISION UXでは、「未来の理想像」として、12本のテーマを用意。「都市を治療し、都市を看取る」、「明日を生きたいが溢れる場所」、「都市を治療した、その先に」、「カルチャーとしてのリジェネラティブ」、「社会に織り込まれたケア(昼)」、「社会に織り込まれたケア(夜)」、「融け合う家族、融け合う暮らし」、「ケアしケアされるためのテクノロジー」、「わたし“たち”の小さな穴蔵」、「明るい最後」、「優しい幽霊」のタイトルで、未来を描いた。
たとえば、「都市を治療し、都市を看取る」では、気候変動による自然災害の発見に伴い、街が大きなダメージを負うケースが増えていることに着目。街の看取りや治療にロボットを活用し、被災地で繁殖する菌を防いだり、人への負担や生物や自然にも配慮した復興を進めたりする様子を描いている。
また、「社会に織り込まれたケア(夜)」では、地球温暖化によって、生活時間が夜にシフトし、子供が夕方から夜にかけて遊ぶといった未来も想定。新たなセキュリティ対策など、夜の時間帯における新たな「ふつう」を提案している。
さらに、「明るい最後」では、技術の進化に伴い死生観がアップデートされ、死の方法やタイミングの選択に積極的に向き合う世界を表現。「優しい幽霊」では、死後の自分のデータの扱われた方を生前に決め、バーチャル空間では亡くなった人と一緒に時間を過ごすといった世界を表現。これまで企業が触れてこなかったテーマや、向き合わなくてはならない深刻な課題にも対しても踏み込んでおり、「こうした未来を描くことで、いまやることを変えるきっかけにつながる」との考えを示している。
ここで示す未来の姿は、パナソニックホールディングスの技術部門が打ち出した技術未来ビジョンによる「共助」や、GREEN IMPACT PLAN 2024(GIP2024)の生物多様性保全における「ネイチャーポジティブ」を目指した事業活動とも、連動することができる提案だとしている。
同社では、「多くの社会課題が生まれているが、パナソニックだけでは解決できないことばかりである。また、描いた未来のなかで、どんな技術やサービスが必要になるのかといった点では、まだ解像度が低いという課題もある。VISION UXを社外に公開することで、ありたい姿の実現のために、社内外のクリエイターと共創し、アイデアを醸成したり、PoCを行ったりといった活動につなげ、より幅広い発想と行動につなげていきたい」としている。
同社では、10月22日から、VISION UXのサイト (https://panasonic.co.jp/design/visionux/)を公開し、12個のテーマによる動画を視聴できるようにしている。
「→使い続ける/MUGE」コンセプトの展示
また、「Aspect」では、「→使い続ける/MUGE」というコンセプトでの展示も行った。
デザイン部門が中心となって、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、企業とユーザーが連携しながら、「モノを長く使う文化」の醸成に取り組むもので、使い続けることを前提とした2つのコンセプトモデルを展示した。
ひとつめは、「泉=SEN」は、空気清浄のプロトタイプで、部屋の空気をファブリックによって浄化することができる。緑茶カテキン繊維や光触媒繊維、活性炭繊維、セラミック繊維といった様々なファブリックから必要な機能を選んで、自由にカスタマイズすることが可能で、花粉症の季節や、子供が生まれたときなど、必要に応じてファブリックを選択。空気の浄化やウイルスの不活化、有害物質の除去といった用途でも利用できる。ファブリックは、家庭の洗濯機で洗うことができ、簡単に手入れが可能だ。また、背面には小型のファンを取り付けて、ファブリックの効能を促進し、空気質のデザインにつなげることができるという。
2つめの「響=KYO」は、自分で自由に組み立てられる空間オーディオのコンセプトモデルであり、木のパネルを振動させることで音を出し、組み立てる木質や形状、配置などによって音質が変化。好みのサウンドに調整できる。
建築の古材や、欠損のあるB級木材から再生した木をパネル状にして使用。接着剤や釘を使わず、簡単に分解ができるため、ユーザー自身で修理したり、気軽にアップデートができたりする。スピーカーボックスを用いずに、物質を振動させるアクチュエーターユニットを使用しているのも特徴だ。
これらのコンセプトモデルは、2024年9月に、京都の建仁寺両足院で開催した「→使い続ける展 2024 / MUGE」にも展示していた。さらに、会場では、「露=RO」というコンセプトで素材と自然の循環をテーマに、冷蔵庫の冷媒管を使用したアート作品も展示していた。
なお、サブテーマとした掲げた「MUGE」は、禅の言葉である「融通無碍(ゆうずうむげ)」から引用。「すべてのものが関わり合って調和する」という意味があり、すべてのものが調和し、「使い続ける」ための体験を深掘りして、それによって生まれる新しい価値を探索することを狙っている。
「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」の展示を紹介
一方、パナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」は、表参道のサテライト拠点を活用し、「FLF EXHIBITION #00 ARCHIVE-2024」を開催。これまで開発したプロトタイプや、すでに実用化している製品を展示した。
FLFは、2017年に設置した組織で、デザインR&Dによる先行開発に特化して活動するデザインスタジオに位置づけている。ユーザーの課題解決やテクノロジーを中心においた商品開発に留まらず、未来洞察をもとに、人々の価値観の変化や社会課題解決を起点としたクリエーションを行うのが特徴で、従来の常識に捉われない新規事業への挑戦などを行っている。
写真を通じて展示内容を紹介する。