藤沢周平の傑作小説を北大路欣也さん主演で映像化した『三屋清左衛門残日録』シリーズ。8月29日に、最新第8作「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」の制作決定が発表され、これを受けてJ:COMはJ:COMサービス加入者を東映京都撮影所(京都府京都市)に招待しての見学ツアーを開催した。
本番撮影中のセットに潜入!!
同シリーズは「時代劇専門チャンネル」を運営する日本映画放送とJ:COMのタッグにより制作されている、今では貴重な“新作時代劇”だ。東映京都撮影所では9月より最新第8作「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」の撮影が開始されており、このタイミングにあわせてJ:COM加入者招待イベントが開催された。
J:COMが京都・太秦にて、こうした招待イベントを実施するのは今回が初めて。また東映京都撮影所としても、近年、このような見学ツアーは実施していなかったという。ちなみに関係者の話によれば「わずかな募集期間にも関わらず、800組ほどの加入者の方にご応募いただきました」とのこと。その人気の高さには、あらためて驚かされる。
ツアーは本番の撮影現場の見学からスタート。屋敷の中で、北大路欣也さんと共演の藤岡真威人さんが膝詰めで話し合うシーン。「はい本番です!」「ヨーイ!スタート!」の大きなかけ声がかかると、スタジオは水を打ったように静かになる。参加者も息を飲み、用意された大きなモニターを食い入るように見つめていた。
そして「ハーイ!オッケー」と監督の大きなかけ声がかかると、セット脇のスタッフはもちろん、見学ツアーの参加者たちにも安堵の表情が戻った。撮影は順調に進んでいるようだ。
この日参加者をアテンドしたのは東映京都撮影所のスタッフ。スタジオの歴史について、また時代劇の撮影全般について丁寧に分かりやすく解説してくれたのは、製作主任を務めている福居さんだ。
撮影では、藤岡さんが重要なセリフを口にするとその表情が大映しになった。ここで福居さんが「この寄る映像ですが、線路のようなレールの上にカメラを乗せて撮るドリーという機材を使って撮影しています」と解説する。レンズのズームを使うよりも自然に撮れるほか、迫力も出るようだ。
この作品でCGは使っているのだろうかと思って聞いてみると、「はい、使っています。例えば、ロケの現場で電線が映ってしまうようなところでは電線を消します。他にもどうしてもカツラの継ぎ目が分かってしまうことがあって。そんな場合もCG処理しています」と福居さん。昨今はカメラもテレビも解像度が高くなったので、昔なら見えなかったようなディテールまで映ってしまうという。
屋外でロケ中に飛行機が飛んできたら、やはり撮り直すのだろうか? そんな質問には「基本的にはリテイクしますが、音声をチューニングすることで消せる場合があります」とのこと。ではグリーンバックを使うことはあるのかと続けて聞いてみると「もちろん使用しますが、その場面だけ絵が浮くことがあります。だからといって全編グリーンバックで撮ると、今度は『スター・ウォーズ』のような映像になってしまいますし、相当な予算がかかります。グリーンバックだと俳優さんの演技に力が入らなくなるとも言いますし、本作はできる限りセットやロケーションを作り込んで撮影を行なってます。ただ東映東京撮影所ではLEDウォールなども試しはじめているようです」という答え。
午前中の撮影が終わると、ここで昼休憩。見学ツアーの参加者は撮影セットの中で、主演の北大路さんと歓談できる時間がもうけられた。
技術の継承が喫緊の課題に
午後は衣裳部屋/メイク室/結髪室/俳優養成所などをまわっていった。話を聞いたのは、美術監督の松宮敏之さん、衣裳の古賀博隆さん、美粧・床山の大村弘二さん。松宮さんは、第30回日本アカデミー賞(2007年)において最優秀美術賞(映画「男たちの大和/YAMATO」)を獲得されている方だ。
「撮影期間、撮影のしやすさ、予算などを考慮しながら、いかに本物っぽく見せるか、に苦心しています。たとえば、こちらの井戸はFRP(ガラス繊維強化プラスチック)で作っています。エージングをして背景になじませるわけですが、そこに本物の苔もくっつけてみる。1つ、2つアレンジを加えることで、映像により説得力を持たせることができるんです」(松宮さん)
衣裳の古賀さんは、今年、米・ロサンゼルスで開催された第76回エミー賞において18部門で賞を総なめしたドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」に、着付け・衣裳アドバイザーとして参加した人物。
シリーズもののドラマの衣裳はすべて衣裳室に保管している、と古賀さん。ただ北大路欣也さんほどの俳優になるとこちらのスペースだけでは収まり切らないため、別の倉庫にも保管しているという。『三屋清左衛門残日録』シリーズについては「当初、第2作が完結篇だったんですよ。だから撮了後、バラしちゃった。でも続篇があるということで、慌てちゃって」と笑っていた。
美粧・床山の大村弘二さんは、第47回日本アカデミー賞(2024年)で協会特別賞を受賞している。「カツラ作りは、俳優さんの頭の形にぴったり沿うようにアルミ板で土台をつくるところから始まります」と大村さん。左右で頭の形が違う人も珍しくないんです、と話す。最近のドラマ撮影については「映像が4K~8Kまで高画素化されたでしょう。髪の生え際(カツラの際)が気になってしょうがないんですよ」。ちなみに、これまでカツラ作りで苦労した人は?という問いかけには「元横綱の曙さんのカツラは大きかったですね。作ってみたら『これバケツ?』っていうくらい大きくて(笑)」と秘話を明かした。
J:COMの担当者は、同社が新作時代劇に取り組む意義について「時代考証、カツラ、殺陣、衣裳、小道具、そういった技術やノウハウを次の世代に残すため」だと説明する。「最近は、時代劇作品が減りました。その結果として、これまで職人さん、そして撮影所が育んで受け継いできた大事な文化が、未来に引き継がれない恐れが出てきました。今後、幅広いファンの獲得を目指して、新作時代劇に若い俳優さんを起用することも必要となるでしょう。また視聴できるプラットフォームを増やすことも意識していきます」。
最後に、ツアーの参加者にも話を聞いてみた。抽選が当たって夫と参加できることを楽しみにしていたという女性は「撮影本番の緊張感を味わえたし、画面からは俳優の皆さんの熱意も伝わってきました。時代劇は昔から好きです。子どもの育児も終わったので、また最近になって見ているんです。北大路欣也さんは、想像していた以上に眼力があって、でも気さくに雑談にも応じてくださいました」と笑顔を見せていた。
また、大阪府豊中市から来たという女性は「30年ぶりくらいに、太秦映画村に来ました。『三屋清左衛門残日録』シリーズは、やっぱり北大路欣也さんが魅力的。今回の見学ツアーは、普段なら見られない撮影所を回れたし、たくさんの小道具も拝見して、職人の方にも貴重なお話を聞けて満足度が高かったです」と話していた。
『三屋清左衛門残日録 春を待つこころ』放送/配信情報
- 日本映画+時代劇 4K:12月8日(日)よる7時TV初放送
- J:COMプレミアチャンネル(J:COM TV 299ch):HD版を同時放送 ※J:COM TV全コース対象
- J:COM STREAM:12月8日(日)よる7時 独占配信開始
- 時代劇専門チャンネル:2025年3月放送予定