ソニーグループは、サステナビリティに関する取り組みとして、新たに策定した「Sony’s Sustainability Vision」に関して説明した。ソニーグループ全体の目指す方向を明確にし、社員、顧客、ビジネスパートナーなどの多様なステークホルダーに、サステナビリティの基本的な考え方をわかりやすく伝えることを目的にしたもの。
Sony’s Sustainability Visionは、ソニーグループ全体の目指す方向を明確にし、社員、顧客、ビジネスパートナーなどの多様なステークホルダーに、サステナビリティの基本的な考え方をわかりやすく伝えることを目的にしたものだ。
「感動に満ちた世界を創り、次世代へつなぐ」をテーマに、一人ひとりの多様な価値観を大切にし、人々の心を豊かにする「PEOPLE」、感動が広がるように、誰もが安心して暮らせる社会づくりに貢献する「SOCIETY」、感動が続くように、生命の基盤である地球環境を守る「EARTH」の3つの観点から行動の方向性を示している。
ソニーグループ サステナビリティ推進部 シニアゼネラルマネジャーのシッピー光氏は、「ソニーグループは、サステナビリティを、経営の重要なテーマに位置づけて、力を注いでいる。経営戦略への統合とともに、各事業において、サステナビリティに関する課題や機会の検討を行い、事業特性に応じた取り組みを進めている」とし、「Sony’s Sustainability Visionは、サステナビリティの活動においても、感動を生み出す行動につなげる必要があるという思いを込めている。2022年度に実施したマテリアリティ分析をもとに、気候変動、DE&I、人権の尊重、サステナビリティに貢献する技術を重視していくことになる」と位置づけた。
サステナビリティ戦略と事業活動は不可分に
また、サステナビリティの取り組みとして、具体的な事例にも触れた。
アクセシビリティの観点では、当事者ニーズを生かした製品およびサービスの実現を目指しており、製品化プロセスにおけるインクルーシブデザインを採用。デジタルカメラに音声読み上げ機能を搭載したり、アクセシビリティコミュニティの意見を取り入れたPS5用アクセスコントローラーを開発したりといった例がある。2025年度までに、ソニーグループ全体で、インクルーシブデザインを製品化プロセスに取り入れる計画だ。
さらに、音楽事業では、アーティストやソングライター、スタッフを対象にした無料カウンセリングやメンタルヘルスケアを行うプログラムを導入。ソニーグループの各部門では、新技術やサービス、投資、支援スキームなどを通じて社会課題の解決を図る取り組みを実施。ソニーセミコンダクタソリューションズでは、エッジAIセンシングプラットフォームの「AITRIOS(アイトリオス)」により、IoTから取得した膨大なデータをクラウドに転送する際の電力消費の増加を削減することに貢献。画像の真正性を検証するカメラソリューションによって、フェイク画像への対策を行ったり、ドライバーの運転特性を計測し、結果に応じて自動車保険料を最大30%キャッシュバックしたりといったサービスを開始していることを紹介した。そのほか、ソニーグループが2024年に新設した一般社団法人Arc & Beyondでは、社会課題の解決に寄与する事業の創出を目指しており、ソニーグループとして30億円の基金を拠出しているという。
エンタテインメント事業では、主要各社が米国に本社機能を持っていることもあり、多様性や社会正義での取り組みが注力点となっていることを指摘。Global Social Justice Fundを通じて、社会正義や人権保護に取り組んでいる団体への支援や、社内外のDE&Iの推進を世界各地で支援。70か国以上、500以上の団体に対して、98億円の支援実績があるという。
また、Sony Interactive Entertainment(SIE)では、PlayStation キャリア・パスウェイにより、才能ある人材をゲーム業界につなげるためのパイプラインを用意。Sony Pictures Entertainment (SPE)では監督の多様性を高めるためのプログラムを用意しているという。
「サステナビリティに関する情報開示や取り組みの義務化がグローバルで進むなかで、本社と事業部門が連携し、バリューチェーン全体を通じたサステナビリティ活動を加速する。社員の意識向上も重要であり、社内啓発活動にも取り組む」などと語った。
環境負荷ゼロ計画の進捗、再生エネ導入は前倒し達成
一方、環境への取り組みについても説明。2025年度に向けた環境中期目標「Green Management 2025(GM2025)」の進捗状況も報告した。
ソニーグループ サステナビリティ推進部環境グループ ゼネラルマネジャーの志賀啓子氏は、「GM2025は、2023年度末において、約7割の項目において、順調に推移している。スコープ1および2に関しては、事業所のGHG排出量5%削減(2021年度比)と、再生可能エネルギー率35%達成の目標があり、どちらも達成している」と述べたほか、「製品の年間消費電力の削減、事業所での水および廃棄物の原単位での削減が課題といえる。製品の大型化や多機能化と、年間消費電力量の削減の両立が必要であり、省エネ施策をより加速させる必要がある」と語った。
ソニーグループでは、長期環境計画「Road to Zero」を2010年に策定し、2050年までに環境負荷ゼロを計画。気候変動、資源、化学物質、生物多様性の4つの観点から、事業活動と、製品のライフサイクル全体を通じた目標を掲げて、活動している。なかでも、気候変動では、スコープ1~3までを含むバリューチェーン全体でのネットゼロ目標を2050年から2040年へと10年間前倒したほか、スコープ1、2のGHG排出を、2030年までにネットゼロにすることを目指している。
また、Green Management(GM)は、Road to Zeroの最終年度である2050年から逆算して、5年ごとに中期目標を設定したもので、現在推進しているGM2025は、2025年度を最終年度とする取り組みとなる。
ソニーグループ全体の2023年度GHG排出量は約2111万トンに達し、そのうち、スコープ1および2が約5%を占め、販売した製品の使用などによる自社以外の排出分となるスコープ3が約95%を占めている。
「スコープ1および2のうち、約7割をスコープ2が占めている。スコープ2排出量削減の鍵となるのが、事業所における再生可能エネルギーの導入である。国内外の複数の事業所で太陽光発電設備を導入しているほか、再エネ電力の購入、再エネ証書の利用などにより、2023年度に再エネ電力比率35%の目標を前倒しで達成している」という。
タイの事業所では、太陽光パネルの設置台数を拡大。消費電力における太陽光発電比率を18%に引き上げたほか、2024年10月にも太陽光パネルを増設し、19%にまで拡大した。また、自己託送による再生可能エネルギーの融通も行っており、ソニー・ミュージックソリューションズでは、JARED大井川センターで発電した余剰電力を、同社静岡プロダクションセンターで活用しているという。ソニーグローバルマニュファクチュアリング&オペレーションズでは、敷地外に設置した太陽光パネルで発電した電力を自己託送。また、日本初のFIP制度を活用したバーチャルPPAの運用を2022年度から開始している。
スコープ3への取り組みにおいては、製品における省電力化として、薄型テレビ「BRAVIA」の事例を示した。ECOメニューに省電力関連の機能を集約し、自動スタンバイや画面の明るさの最適化などにより、省エネに貢献できるという。専用オプションのBRAVIA CAMを取り付けると、人の動きを検知し、人がいない場合にはテレビの明るさを自動で下げ、最低限の電力消費量に抑えることができる。これらの機能により、2024年度発売モデルでは、電力消費量を最大41%も削減できるという。「電力消費を最適化しながら、メリハリのある映像を実現する機能も搭載している」と述べた。
「電力消費が大きいET&S(エンタテインメント・テクノロジー&サービス)、G&NS(ゲーム&ネットワークサービス)分野の製品では、さらなる省エネ化が重要になる。また、製造事業所での消費電力が大きいI&SS(イメージング & センシング・ ソリューション)での再エネ化にも力を注ぐ」という。
SIEでは、国連のPlaying for the Planet Allianceへの貢献を目的に、気候変動に対する認識向上に向けた活動の一環として、VR技術を採用したアプリ「Climate Station」を開発中であり、国連環境計画 (UNEP) の協力を得て、複雑な気候データを一般ユーザーが閲覧し、インタラクティブに学び、理解を深めることができるようにする。また、「アーロイの森」プロジェクトを推進し、ユーザー参加型の生物多様性の保全活動も進めている。
スコープ3でのサプライヤー支援では、パートナーエコチャレンジプログラムを展開し、サプライチャー主体での省エネや再エネを推進。日本だけでなく、中国に工場を持つサプライヤーとも共同で活動を行い、それそれの状況にあわせた活動提案にも取り組んでいる。
さらに、サーキュラエコノミーについても触れた。世界各地で回収した使用済み製品の再資源化を進めており、ソニーが開発した紙素材である「オリジナルブレンドマテリアル」はXperiaやヘッドホンのパッケージに使用。もみ殻から生まれた多孔質カーボン素材の「Triporous(トリポーラス)」は、Tシャツやカーペットに利用し、水や空気の浄化にも活用している。また、難燃性再生プラスチックの「SORPLAS (ソープラス)」はスーツケースやPCケースに利用。新たに開発した「高音質再生プラスチック」はサウンドバーのフロントパネルなどのオーディオ製品に採用されているという。
志賀ゼネラルマネジャーは、「2026年度からのGM2030の策定も開始している。GHG総量での削減や、循環資源の利用の加速が注力分野になる。2025年秋に開示したい」と述べた。
ソニーグループのパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことである。サステナビリティへの取り組みでもその姿勢は変わらない。サステナビリティと感動を結びつけるのが、ソニー流のサステナビリティ活動といえる。