7月17日に、J:COMのオリジナルチャンネル「J:COMテレビ」でパリ2024パラリンピックの放送を行うことが発表されました。今大会は初の試みとして、同社の地域情報アプリ「ど・ろーかる」での配信も行われ、スマホ/タブレットでの視聴が可能となります。

パリ2024パラリンピック中継のメインMCを務めるのは、2021東京/2022北京に続き、3大会連続で番組MCを務める中山秀征さん。中山さんは「J:COMテレビ」で放送中のパラスポーツ応援番組『パラスポチアーズ!パラアスリート全力応援』にも出演するなど、パラスポーツと関わり、その魅力を伝えています。

  • 中山秀征さん、七野一輝選手

    パリ2024パラリンピック中継のメインMCを務める中山秀征さんと、この日番組収録で取材した七野一輝選手

今回、特別に『パラスポチアーズ!パラアスリート全力応援』の番組収録にお邪魔することができましたので、その模様をご紹介します。

立位から車いすへの転向から約2年で出場を勝ち取った七野一輝選手

この日取材させていただいたのは、卓球の男子クラス4で初めてのパラリンピック出場を決めている七野一輝選手です。

  • 七野一輝選手

    七野一輝選手

パラリンピックの卓球は、障害の種類や程度によってクラスが分けられており、同程度の障害の選手どうしで競うことになっています。七野選手が出場するクラス4は車いすに乗った状態でプレーするクラスのひとつですが、実は七野選手は前回の東京大会において、杖で体を支えてプレーする立位のクラスで出場まであと一歩のところまで迫っていました。

しかし、七野選手は2022年に練習中の転倒がきっかけで立位でのプレーが難しくなり、車いすのクラスへの転向を行うことになります。七野選手自身はこの転向について「立っているときよりも可動域が広がって、できることが増えました」と話していましたが、「車いすに転向してすぐ勝てるとは思っていなかった」とも語っており、転向から約2年で代表の座をつかむのは簡単なことではなかったようです。

取材当日は、まず七野選手がコーチと練習に取り組むシーンの撮影から始まりました。訪れた東京都内の卓球場は、七野選手が普段から練習を行っているという、いわばホームともいうべきところです。

  • コーチとの打球練習

    コーチとの打球練習

コーチとの打球練習は、七野選手が車いすに乗っていること以外、おそらく健常者の卓球の練習風景と同じ。球速も、素人目には一般的な卓球競技と違いはないように見えます。

なお、健常者の卓球ではさまざまな戦型がありますが、車いすクラスの卓球ではすべての選手が台から離れずにプレーする前陣型にあたるそうです。ラケットもペンホルダーグリップを使用する選手は少なく、シェークハンドが多いとのこと。ラバーは表面に粒々があり、回転がかかりにくく、また相手の回転の影響を受けにくいタイプのものを七野選手は使っています。

  • 七野選手のラケット

    七野選手のラバーは粒々があるタイプのものを張っています

七野選手は自身のプレースタイルについて、「パワーを重視するスタイル」と表現していました。日本のパラ卓球ではこれまでパワーよりもテクニックで勝負するスタイルの選手が多いそうで、ここが七野選手のプレーの個性だそうです。

  • 上腕の筋肉

    「パワー重視」というだけあって、上腕の筋肉は相当なもの。腕周りを測らせていただいたところ、38cmありました

七野選手によれば、立位のころは杖で体を支えるため、左腕の筋肉が必要だったとのこと。車いすの操作はそれに比べると腕への負担は小さいそうで、むしろ座った状態で強くラケットを振るためには体幹が大事なのだとか。

もちろんパワーだけというわけではなく、立位のときから培ったテクニックも使いこなせるのが七野選手の強み。中でも得意とするのがフォア側の体近くにボールを呼び込んでラケットですくい上げるように強打するボール。とくに呼び名を決めているわけではなないそうですが、“七野スペシャル”とでもいうべきこのボールは、立位でプレーしていたときからの得意技だそうです。

  • ボールを呼び込んですくい上げるように強打

    ボールを呼び込んですくい上げるように強打

七野選手にパラ卓球の車いすクラスの競技としての見どころを聞いてみると、ラバーを活かした打球の変化、球筋の高低や深さ/浅さなどのような健常者の卓球と同様の要素のほかに、「高いボールが必ずしもチャンスとは限らない」など、同じ卓球ではあってもパラ卓球ならではの要素があると教えてくれました。

ちなみに七野選手に現在の調子を聞いたところ、「調子は、いいと思います」と力強い言葉が返ってきました。6月にチェコで開催された国際大会でもシングルスでの優勝を果たしています。このチェコでの大会は、本大会でのシードを争うパラリンピックの前哨戦としてのような位置付けだそうです。そこで世界選手権のチャンピオンと東京2021パラリンピックの銀メダリストを破っての優勝を果たし、「ここからさらにギアを上げていきたいです」と語っていました。目標とする成績については「意識的に言わないようにしています」とのこと。もちろん、ご自身の胸の内ではメダルを目指しているはずです。

中山秀征さんも車いすでの卓球を体験

ここで中山さんがコート入り。中山さんが車いす卓球を体験するパートの撮影になります。

  • 中山さんが登場

    中山さんが登場

立った状態で車いすに乗った七野選手とラリーを行った後、中山さんも車いすに乗り、車いす卓球を体験しました。意外にも……と言っては失礼になりますが、中山さんも車いすに乗った状態への適応が早く、数球はラリーが続きます。

  • 車いすに乗っての卓球を体験する中山さん1
  • 車いすに乗っての卓球を体験する中山さん2

    車いすに乗っての卓球を体験する中山さん

それでもはたから見ているよりご本人としては難しかったようで、「動かなきゃいけないのに動いてはいけない」「場所によっては瞬時に動かなきゃいけないので、判断力と体力が相当必要だなと思いました」とその感想を話していました。実際の中山さんのプレーについては後日『パラスポチアーズ!パラアスリート全力応援』の番組内で紹介されると思いますので、そちらでご確認ください(7月28日放送予定)。

こうして車いす卓球を体験した後は、トークパートの撮影に移ります。東京大会で代表を逃してから現在までをどのように過ごしてきたのか、立位から車いすへの転向について、そもそもなぜ卓球を始めたのか……など、中山さんが上手に七野選手から話を引き出していき、どんどん収録は進んでいきます。

  • トークパートの撮影

    トークパートの撮影

最後に中山さんと七野選手で、番組の決めポーズと掛け声を撮影して撮影は終了となりました。

  • 「パラスポ チアーズ!」の掛け声とポーズ

    「パラスポ チアーズ!」の掛け声とともにポーズで撮影終了

「変な気遣いはいらない」「僕も発見をしながら中継をしていきたいと思います」

番組収録を終えた中山さんに、あらためてさまざまなパラスポーツ選手を取材しての印象とパリ2024パラリンピック中継のメインMCを務めるにあたっての想いを聞きました。

「僕らにとっての普通、たとえば“歩く”“走る”“見る”といったことがない中でプレーするのがパラスポーツの選手のすごいところ。たとえばブラインドサッカーでは、ボールが見えていないのに、鈴の音を頼りにあたかも見えているかのようにプレーするというすごさがある。ブラインドサッカーは僕も体験しましたけど、音が鳴ったのはわかったとしても、近づいてくるときにどこにくるのかまではわからない。どれだけ練習したのか、どれくらい集中しているのかと思いますね」と話す中山さん。

  • 多くのパラアスリートを取材してきた中山さん

    多くのパラアスリートを取材してきた中山さん

印象に残っている競技としてはそのブラインドサッカーとラグビーを挙げました。「ラグビーはまたハードなんですよ。(車いすに)乗って当たってみたこともあるんですけど、吹っ飛びますよ(笑)。それでも突っ込んでいく姿勢、中には握力がないっていう方もいるんですけど、なのにあんな激しいことができるのはどうしてなんだ、と。指先の握力がなければ手首を使う、とにかく使えるところを使って最大限のパフォーマンスをするんですね」

このほか、パラカヌーの瀬立(せりゅう)モニカ選手が大雨の中で何セットも漕ぐ姿を見て「せめて更衣室くらいは使えるといいのに」と感じたり、パラ・パワーリフティングの田中秩加香(ちかこ)選手が上半身のパワーだけでベンチプラスを行うところを見て「どうやって踏ん張っているんだろう?」と思ったことなどを話してくれました。

こういった取材の経験から、中山さんは「ここまでの人たちに変な気遣いはいらない」と感じているそうです。パラスポーツ選手には、障害を持って生まれてきた人もいれば、視力がどんどん低下していきやがてまったく見えなくなった人も、ある日突然の事故や病気で障害を抱えるようになった人もいます。「そういったさまざまなことをご自身の中で全部乗り越えてこなければ、現在はないと思うんです」「共通して言えるのは、みなさん明るい。中には『障害があったからこそメダルが取れたんだ』という人もいました」という中山さん。

「パラスポーツは障害を持っている人たちへのエールになるのと同時に、健常者に対しても『われわれでもここまでできるんだ』という姿を見せてくれる。観ている人たちに恩着せがましくそれを言うことはないんですけど、試合を観てもらえば感じるところはあると思うんです。とにかくいちど観ていただければ発見があるし、僕も発見をしながら中継をしていきたいと思います」と、あらためて大会MCとしての意気込みを語ってくれました。

パリ2024パラリンピック 放送概要

J:COMでのパリ2024パラリンピック放送は、日本から選手が出場する競技を中心に中継を行う予定です。今大会では、前大会ではJ:COMでの放送がなかった開会式・閉会式の放送も行われます。

  • 番組タイトル:パリ2024パラリンピック
  • 放送日時:8月29日(木)~9月9日(月) 毎日20時~22時
  • 放送チャンネル:J:テレ
    札幌・仙台・関東エリア 10ch
    関西・福岡・北九州エリア 12ch
    下関エリア 111ch
    熊本エリア 11ch
  • 配信
    • 配信アプリ:地域情報アプリ「ど・ろーかる」
    • 配信期間:8月29日(木)20時~9月9日(月)22時
    • アプリ価格:無料

毎日の放送では、20時から20時30分まではその日のハイライトとして日本人選手の活躍をまとめて放送。20時30分から22時まで、日本人選手の活躍が期待される注目競技を選定し、実況・解説とともに中継放送を行います。

配信では、9月9日の大会終了までの間、アーカイブの視聴が可能です。