ヤマハは、2023年10月10日、東京・渋谷のライブスタジオ「GRIT at Shibuya」にて同社のフラッグシップ・シンセサイザー「MONTAGE(モンタージュ)」の後継モデルとなる「MONTAGE M」を発表した。発表会では、音楽プロデューサー・浅倉大介によるデモパフォーマンスが披露され、先頃発売されたフィンガードラムパッド「FGDP-50」「FGDP-30」もあわせて紹介された。
「MONTAGE M」は、音源システム「Motion Control Synthesis Engine(モーション・コントロール・シンセシス・エンジン)」を特徴とするデジタルシンセサイザー。8オペレーターで最大128音ポリフォニックのFM音源「FM-X」と、サンプルベースの音源「AWM2」(最大256音ポリフォニック)に、今回、最大16音ポリフォニックのバーチャルアナログ音源「AN-X」が加わった。3つの音源合計で、最大400音の同時発音を実現する。「AN-X」は3オシレーター+1ノイズジェネレーターの構成で、10タイプのフィルターを2系統利用できる。また、アナログシンセサイザー特有の電圧変化による音色やピッチの不安定さをシミュレートする「Voltage Drift」に経年による変化をシミュレートする「Ageing」機能も搭載する。「AWM2」は波形を増強。前モデルで5GBだったプリセットは10GBに、ユーザーメモリは1.75GBだったのが3.7GBと倍増している。1パートあたりの最大エレメント構成は8エレメントから128エレメントと大幅に拡張。これにより、従来は再現するのに複数パートが必要だったアコースティック・ピアノなどの音源はリアルで繊細な表現力はそのままに、1パートだけで賄えるようになった。
エフェクトは、ステージキーボード「YC」シリーズで採用しているロータリー・スピーカーを再現した「VCMロータリー・スピーカー」を新搭載。スライダーを上から下へ引き下げることで音作りが行えるオルガン用のドローバーの操作性も再現した。
「Motion Control Synthesis Engine」のもう一つの核となる「Motion Control」は、コントローラーを操作することで幾重にも折り重ねられた音を滑らかに変化させられる。「MONTAGE M」シリーズは多彩なコントロールソースを搭載するが、特徴的なものとして「Super Knob(スーパーノブ)」と「Motion Sequencer(モーションシーケンサー)」がある。「Super Knob」は一度に最大280のパラメーターが制御可能なノブで、シンプルな操作にも関わらずダイナミックな音変化を表現できる。「Motion Sequencer」では、最大8+1系統(パート用8系統、Super Knob用1系統)のコントローラーによるパラメーターの変化を設定・再生可能で、演奏しながら多層的で複雑な音を変化を演出できる。この他、A/Dインプット端子に入力されるオーディオのビートを自動検出し、「Motion Sequencer」等を同期させるAudio Beat Sync(オーディオビートシンク)や、オーディオ信号をソースにコントロール情報を生成するエンベロープフォロワー、KEYBOARD HOLD、PORTAMENT専用コントロールや最大5ゾーンのスイッチとしても使えるRIBBON CONTROLLERなどのコントロール機能が用意されている。
ユーザーインターフェースの中央には、前シリーズ同様、メイン画面となるタッチパネルを用意しているのに加え、画面下部の「ディスプレイノブ」や「NAVIGATION」ボタンの追加により、音色選択から詳細なエディットまでを効率的にカバーする。また、新たにサブ画面「セカンド・ディスプレイ」を追加。AN-Xのオシレーターやフィルター、FMフリークエンシー、オペレーターレベル、エフェクトパラメーターといったシンセサイザーの重要なパラメーターを表示し、瞬時にサウンドエディットが行える。サブ画面右には「PAGE JUMP」を配置。サブ画面で選択中のパラメーターのより詳細な情報をメイン画面に瞬時に表示しアクセスできる。
61鍵の「MONTAGE M6」、76鍵の「MONTAGE M7」には、フラッグシップシンセサイザー用の鍵盤であるFSX鍵盤(チャンネルアフタータッチ対応)を装備。また88鍵の「MONTAGE M8x」には、新開発の「GEX鍵盤」を搭載。グランドピアノ同様、低音は重く、高音はタッチが軽くなるグランドハンマーアクション仕様となっている。「GEX鍵盤」には新しい鍵盤センサーを採用しており、キー毎に独立した音色変化を与える「ポリフォニックアフタータッチ」を実現。ポリフォニックアフタータッチは往年の名機「CS-80」や「DX1」でも装備されていたが、88鍵モデルで採用されたのは、意外にも今回が初とのことである。
オーディオの出力回路には高級オーディオに使用されるクラスの「Pure Analog Circuit 2」を採用。先代モデルからスペックが向上し、ノイズ低減、ダイナミックレンジの拡大、クロストークや低域位相、歪み率の改善が図られている。音量を問わないサウンドの再生が可能となったので、中低域の精細さ、プレゼンスも向上しているとのことだ。
さらに、ライブと音楽制作両面での活用・連携を強めるクローン・ソフトシンセイザー「EXPANDED SOFTSYNTH PLUGIN for MONTAGE M」のダウンロードコードを同梱する。このソフトシンセイザーは、「MONTAGE M」完全互換となっており、本体がない状況でも、「MONTAGE M」をベースとした音楽制作が行えるようになっている。ダウンロード開始時期は、2024年初頭にv1.0(エディット機能に制限あり)を、同年夏以降にv2.0(フル機能版)を予定。なお、単体での販売は行われない。
発表会では、先頃発売となったフィンガードラムパッド「FGDP-50」「FGDP-30」も紹介された。「FGDP-50」「FGDP-30」は指でドラムの演奏を楽しめるという新コンセプトの電子楽器。小型の筐体にスピーカーや音源、充電式リチウムイオンバッテリーを内蔵し、時間や場所を選ばずに演奏を楽しめる。価格は、「FGDP-30」が25,300円、上位モデルの「FGDP-50」は39,600円。
そして、「MONTAGE M」のデモンストレーションには、accessやIceman、小室哲哉とのユニットPANDORAなどでの活動で知られる音楽プロデューサー・浅倉大介が登場。演奏に入る前のトークでは、前述の「FGDP-50」「FGDP-30」に内蔵している上昇音やシンセパーカッションは浅倉のスタジオで、「とんでもない名機を使って」制作したと収録の秘話を明かした。
浅倉は、開口一番、見た目で何がアップデートされたのか、すぐに分かったと、その衝撃を伝えた。浅倉にとって「MONTAGE」は行くところまで行ったシンセサイザーで、究極の形だったそうだ。それが今回のアップデートでは、「セカンド・ディスプレイ」が追加され、ツマミが増え、往年のアナログシンセサイザーのアイディアがドッキングしていると指摘する。先述の「Voltage Drift」や「Ageing」といった機能にも興味津々の様子だ。さらに、サブ画面右の「PAGE JUMP」の機能、2つ用意されたShiftボタン、サウンドの状態を俯瞰できるNavigationボタンといった「迷子にならない」操作性の向上にも触れ、「GEX鍵盤」のポリフォニックアフタータッチではトップノートにだけビブラートをかけられることや、KEYBOARD HOLD、PORTAMENTが痒い所に手が届く機能として、実演を交えながら紹介を続けた。
演奏では、アナログシンセサイザー的な音色から、「AWM2」のアコースティック・ピアノ、「VCMロータリー・スピーカー」とドローバーを駆使したオルガンなどをフィーチャーし、迫力のパフォーマンスを展開した。
「MONTAGE M」シリーズは2023年10月20日の発売を予定。希望小売価格は、「MONTAGE M6」が440,000円、「MONTAGE M7」が473,000円、「MONTAGE M8x」は517,000円となっている。なお、10月13日より全国のヤマハ特約店にて、発売に先駆けて「MONTAGE M」シリーズを試奏できる先行展示を実施する。実施店詳細については、製品サイト内の展示店紹介ページを参照いただきたい。