Amazonが電子書籍専用端末Kindleシリーズを刷新、新ハードウェアとしてベーッシックスタンダードな6インチの「Kindle」(無印)、そのリッチバージョンとしての7インチ「Kindle Paperwhite」、さらにそのプレミア版としての「Kindle Paperwhite シグニチャーエディション」を発売した。

すべて16階調グレースケール300dpiの電子ペーパーディスプレイを搭載する。重量はそれぞれ158g、211g、214gとなっている。また、追って手書き入力に対応した433g・10.2インチの「Kindle Scribe」も12月4日から発売される予定だ。

Kindleのラインアップには、過去においてこれら以外にページめくりができる物理ボタンを備えた7インチ「Kindle Oasis」が存在したが、今回の発表では、その刷新のニュースはなかった。

  • 無印版のKindleでは新たに抹茶をイメージした新色「マッチャ」が登場した

新しいKindle Paperwhiteを試した。安定の使い勝手が魅力

AmazonによるKindle電子書籍コンテンツ配信サービスのスタートは2007年、そのストアが日本で使えるようになるまでには5年の歳月が必要で2012年を待った。

今年(2024年)はそれから12年目となる。紙の書籍をベースとした電子書籍コンテンツを取り巻く環境は、コロナ禍を経て大きく変化しているようでいて、何一つ変わっていない印象もある。

また、スマホのディスプレイの大型化などによって、読書のために電子端末を使うといった酔狂なことを望むエンドユーザーも、スマホで十分と考えるようになり、電子ペーパーの専用端末はそれほど必要なものではないという意識も見て取れる。

実際に端末を借りて手元で使わせてもらった。今回のハードウェア刷新は、おそろしく地味なものとなっている。今どきの端末としての基本であるWi-Fiの5GHzサポートやUSB-Cの充電ポート装備などは当たり前として、ページめくりの速度や無印モデルにおけるディスプレイ輝度の向上程度にとどまっている。

つまり、以前からのKindleユーザーにとっては使い勝手がほとんど変わらない安心な代替機であり、言葉は悪いが物理ボタンを重宝していたOasisユーザーだけが蚊帳の外だ。

  • 今回試用したKindle端末たち(左がKindle Paperwhite シグニチャーエディションのメタリックジェード、右がKindleのブラック)

画面サイズと合わせられる本、合わせられない本がある

その一方で、Kindleの専用電子書籍コンテンツは、今なお、「なんちゃって」仕様のものが散見される。専用端末以外に、スマートデバイスのアプリでも楽しめるのがKindleコンテンツの強みだが、その中には電子化されてはいるものの、PDFや画像として提供されているコンテンツがある。それが多彩なディスプレイサイズに追いつけない。

マンガ本の電子版はその代表例だともいえる。実物大のコミックサイズでマンガを楽しもうとすると、新書版、B6版、四六判サイズが必要で、雑誌連載時のサイズを求めるならB5版と、見開き表示の実物大表示は最大サイズのディスプレイをもつKindle Scribeでも無理だ。何しろ実物大でもまだ小さいと感じるユーザーが一定多数いる。

だが、内容構成する要素の大半が文字である小説や、ノンフィクションといったコンテンツについては、リフローの仕組みで本文に設定した文字サイズや画面サイズに応じてテキストやレイアウトがダイナミックに再構成されて表示されるので、これらの要素が固定されたフィックス型のコンテンツに比べ、圧倒的に扱いやすくなる。

何しろ、読者側が文字のサイズや行間などを自由に設定し、もっとも読みやすい状態で表示できるからだ。一般的なコミックがリフローコンテンツとして成立しない理由は、この自由度がコンテンツに向いていないからということもできる。あちらをたてればこちらがたたずというわけだ。

文字を調整できる端末は読書の楽しみを支えてくれる

高齢者や弱視のエンドユーザーにとって、Kindleのような読みやすくモビリティの高い端末の存在は読書の救世主だともいえる。移動中に読書を楽しむという何十年も続いている習慣をキープできるのはうれしい。

もちろんアプリを使って大画面テレビでコンテンツを楽しむといった方法もある。iPhoneのKindleアプリで見開き表示中のコミックは、そのコンテンツネームの文字を読むのも小さすぎて難しい。でも、50インチのテレビに表示すればまったく問題ない。それが電子書籍の醍醐味だ。おかげで老眼になっても少年コミックを楽しめる。

Kindleのような専用端末は、書籍を読む楽しみを生涯の喜びとしてもたらしてくれる。それこそがデジタル社会の目に見える恩恵であり、個人的にも、Kindleのような端末と、そのコンテンツサービスの存在はありがたいし、この先も愛用したいと思っている。それだけに、今回の新ハードウェアへの刷新は地味ではあったとしてもうれしい。Amazonがこのサービスを継続することを保証しているように思えるからだ。

だが、ひとつだけ苦言を。コンテンツの表示については問題ない。でも、KindleやKindle PaperWhiteにはホーム画面コンテンツのレイアウトサイズ変更機能がない。OasisやScribeにはレイアウトとして「標準」と「拡大」が用意されていてライブラリのコンテンツ一覧や設定画面などを、多少は拡大表示して見やすくできたのだが、それができない。

何が困るかというと、自分のライブラリの一覧から、読みたいコンテンツを探すのに、表示が小さすぎて困ってしまうのだ。コンテンツの中身の表示についての自由度が高いだけに、このあたりもきちいんとケアすることを望みたい。不満といえばそれだけだ。