パナソニックくらしアプライアンス社は、同社独自のナノイーデバイスの累計出荷台数が、2024年6月に1億台に到達したと発表。8月2日に、滋賀県彦根市の同社彦根工場HIKONE KIZUNA館において、説明会を行った。
個人向け家電から公共空間へ拡大するナノイーデバイス
パナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部の南波嘉行事業部長は、「ナノイーは、水から生まれ、人も、空気も美しくするパナソニック独自のクリーン&ビューティーテクノロジーである。ナノイー技術を通じて、世界中の人々に快適な暮らしを提供することを目指してきた。今後は、白物家電を基盤に、グローバルビジネスの拡大と、車載向け事業を拡大して、搭載領域を広げるとともに、グローバル展開を推進することで、2030年度には累計出荷2億台を目指す」と、今後の成長戦略を打ち出した。年間1500万台規模の出荷を目指し、それに向けて生産ラインを強化していくという。
同社によると、累計1億台の出荷のうち、白物家電向けが約半分、車載向けが約15%を占めているが、2億台を達成する時点では車載が半分を占めることになるという。また、国内向けが55%となっているが、今後は、中国、アジア、欧州でも事業を拡大させる考えだ。
なお、同社では、ナノイー出荷1億台記念ロゴを制作した。入社5年以内の若手社員24人が参加している彦根工場ブランディング活動を通じて制作。ロゴのデザインコンセプトは、ナノイーの搭載領域の広さを知ってもらうこととし、「きれいなの、いいな。」のタグラインを入れている。ロゴは、彦根工場の壁面投影やネックストップなどに活用されるという。
ナノイーデバイスは、同社の空気清浄機やヘアドライヤーをはじめ、44商品群に搭載しているほか、全国の鉄道会社15社、自動車メーカー9社115車種にも搭載。さらに病院や老人ホーム、学校、レストラン、エレベータなど、さまざまな公共空間でも採用が広がっている。パナソニックグループ以外では51社が、ナノイーを搭載した商品を展開。欧州、中国、ASEANをはじめとして、世界107の国と地域に商品を提供しているという。
ナノイーを導入している京阪電気鉄道では、「ナノイーXを導入したプレミアムカーは、澄んだ空気を感じるといった声がある」とコメント。東武鉄道では「お客様から臭いに関する意見をもらうことが少なく、快適な室内空間の提供に寄与している」と述べている。小田急電鉄では、「競合他社の空気清浄機に比べて、メンテナンス周期が長く、検査周期との整合を取りやすい」と評価。TOSEIでは「海外での知名度の高さがあり、ナノイーを搭載していることが、他社や他店舗との差別化につながっている」と語った。また、トヨタ自動車マリン事業室では、「船にもナノイーが搭載されることを待っていたという声もあり、安心感にもつながっている」という声があがっているという。
南波事業部長は、「パートナーの価値提供に貢献するとともに、お客様からも効果を認めていただいている」と語った。
ナノイーとは? 発生の仕組みや効果
ナノイーは、OHラジカルを持つナノサイズの清潔イオンであり、有害物質を化学的に変性させ、脱臭や除菌、ウイルスを抑制できるのが特徴だ。直径5nmから20nmの微粒子であるため、繊維の奥にも浸透したり、弱酸性であるため、髪の毛や肌にも優しかったりという特性を持つ。
ナノイー発生装置は、対向電極と霧化電極、さらに、霧化電極を冷却するためのペルチェ素子で構成しており、電極冷却による結露現象によって、空気中から自動的に水分を収集。この水分に高電圧をかけると水が電極となり、ナノイーを生成。ナノイーは、水に包まれていることで長寿命化しているため、部屋の隅々までナノイーを届けることができる。
これまでに世界11カ国45機関と研究を行い、50種類以上の菌やウイルスを含む100種類以上の有害物質に対して抑制効果があることを実証している。カビについては、クロカビをはじめとして家の8大カビのすべてに対して、99%以上の殺菌効果が実証されている。現在、エビデンス保有件数は192件に達しているという。
2024年3月には、畳20畳分にあたる98立方メートルの広さを誇る日本最大級の検証空間としてバイオハザード対策試験室を設置。これまで国内で検証が難しかったバイオハザードレベルのウイルスや微生物を対象に、大空間で検証が行えるようにしたという。
パナソニック くらしプロダクトイノベーション本部コアテクノロジー開発センターの佐々木正人所長は、「ナノイーは、水に含まれているOHラジカルが部屋の隅々まで拡散し、菌に届いたあと、菌が保有する水素を抜き取り、菌の水素を水に変性させ、菌を不活化し、抑制するというメカニズムである。カビ、花粉、ニオイ、PM2.5、アレル物質、菌およびウイルスといった有害物質を抑制できる」と説明。さらに、「ナノイーデバイスは、薬剤を使用することなく、液体などの供給が不要である。また、水が電極を守り、摩耗から保護するため、デバイスがメンテナンスフリーで、常に清潔な環境を実現できる」と語った。
一般的に、イオン発生装置は、放電が必要であるため、電極同士で電撃を発生させるため、一定期間を経過すると発生装置の交換が必要になるが、ナノイーでは、水に対して放電するため、発生装置の交換が不要になっている。
ナノイーの開発は、1997年に、住環境の空気浄化をテーマに研究開発を開始したのが発端だ。新素材から発生するシックハウス症候群が社会課題となり、住宅への機械換気設備の設置が義務化されるといった動きがあった時代だった。パナソニックでは、2001年に、水が臭気成分を溶かす性質に着目し、これを空気浄化に応用することを検討。社員2人で研究をスタートさせたという。2002年にはナノイー発生ユニットの試作品が完成し、効果の検証を本格化していった。そして、2003年には水補給式のナノイーデバイスが完成し、その後、商品に搭載されていた。
ナノイーデバイスは、空質向けナノイーデバイスと、美容特化ナイノーデバイスに大別される。
空質向けナノイーデバイスは、2003年に水供給型のデバイスを開発。2005年にはペルチェを採用することによって、水供給レスを実現して大幅に小型化。その後も、必要最低限の水で同等性能を実現することを目指しながら、小型化を図っていった。また、OHラジカルの発生量を増加させるために放電技術を進化。2011年にはコロナ放電を採用し、毎秒4800億個のOHラジカルを発生することに成功。さらに、2016年にはマルチリーダー放電を採用し、ナノイーXとして、毎秒4兆8000億個および毎秒9兆6000億個のOHラジカルを発生させるデバイスを商品化。さらに、2021年にはラウンドリーダー放電により、毎秒48兆個のOHラジカルを発生させることができるようになった。「従来は点や線であった発光領域を、ラウンドリーダー放電により、円錐状の面に広げることができた。10年間でOHラジカルの発生量を100倍に増加させている」とした。
また、美容特化ナノイーデバイスは、2005年にコロナ放電によるデバイスを商品化。2016年にはマルチリーダー放電により、水分量を18倍に増加。さらに、2024年にはマルチリーダー放電の放電領域拡大によって、水分量を180倍に増加させ、これを新製品のナノケアUltimateに搭載している。
「髪に潤いを与える効果は、ナノイーに含まれる水分量の増加によって向上する。新たな美容特化ナノイーデバイスは、霧化電極形状の進化などにより、水分量を180倍にすることができた」と胸を張る。
彦根工場、2022年に年間1000万台の生産体制を確立
彦根工場では、研究、開発、製造が一体となり、デバイスの小型化、コストダウン、生産の自動化に取り組んできた経緯がある。とくに、2011年には設計思想をゼロから見直し、放熱性能や冷却性能を向上させた第4世代を開発。ペルチェ素子を最小化することで、37分の1にまで小型化することができたという。さらに、源泉一体自動ラインを導入。生産効率の向上を実現したことで、2022年2月には年間1000万台の生産体制を確立し、現在に至っている。
生産ラインにおいては、「お客様に対して、商品だけでなく、工程丸ごとお買い上げをいただいていることをコンセプトにモノづくりを進めている」と表現。ひとつの不具合でも、その不具合が発生したお客様にとっては100%の不具合になるという考え方のもと、生産工程において、不具合の発生や不良品を流出させないための歯止めや施策を盛り込んだり、製造部門だけなく、設計部門や品質部門などの関係部門を巻き込んだ品質維持の取り組みを行ったりしている。また、万が一、不良品を流出させてしまった場合にも、QRコードによって、個別デバイスの特定が可能になっている。どの時間に、どの工程を通過したかを特定でき、生産工程の変化などを解析できるようにしている。また、作業環境においては、温度および湿度の管理を行い、信頼性と安定性がある検査も実現しているという。
さらに、出荷時には100以上の品質項目を試験評価しており、それを達成した仕様のデバイスだけを提供しているという。具体的には、タバコの煙が10年間に渡って充満した環境でも駆動すること、85℃からマイナス40℃の環境でも動作すること、油やアルコール、可燃ごみなどの可燃物が付着しても発火しないこと、火薬庫レベルの空間でもナノイーによって爆発がしない防爆発試験をクリアしていることなどがあげられる。
「常に、現状に満足せず、挑戦してきた。その結果、研究、設計開発、製造技術を進化させ、ナノイーデバイスは、20年間に渡り、様々な用途で利用されてきた。健やかな生活に貢献しつづけることはもちろん、人の免疫力向上、アンチエイジングをはじめとした変化するニーズにも対応した新たな価値を提供する」と述べた。
一方、ナノイーデバイスの誕生に関わった広島大学名誉教授 奥山喜久夫氏も駆け付けた。
奥山名誉教授は、微粒子工学の第一人者であり、ナノ粒子を合成、機能化する研究を行ってきた。1985年から7年間、夏休み期間中に限定して、米カリフォルニア工科大学で研究活動を行っていた際に、エレクトロスプレー(静電霧化)技術に触れ、それに適した材料の研究も開始したことが、その後のナノイーの実用化につながっているというエピソードを披露した。
「1995年頃に、室内の空気環境を整えるプロジェクトに松下電工(現パナソニック)の技術者が参加しており、共同で空気質の改善に関する研究を進めた。パナソニックの空気清浄機に静電霧化技術を採用してはどうかと提案した。これがその後、ナノイーと呼ばれるようになった」と振り返り、「大がかりな装置を空気清浄機に搭載するのは大変だと思ったが、パナソニックは、小型化、高性能化、安価なデバイスを開発し、それを空気清浄機に搭載した。その技術力には感心した。効果や安全性などについても、外部の専門機関で調べてもらい、有効性が確認された。この技術を美容家電に応用した点にも驚いた。今後もパソナニック独自のプロジェクトとして大きく成長することを期待している」などと語った。