ソニーグループが発表した2023年度(2023年4月~2024年3月)の連結業績は、売上高および金融ビジネス収入は、前年比18.6%増の13兆207億円となり、過去最高を更新。営業利益は同7.2%減の1兆2083億円、調整後OIBDAは同0.5%増の1兆8261億円、調整後EBITDAは同1.1%増の1兆8179億円、税引前利益が同0.5%減の1兆2686億円、当期純利益が同3.5%減の9705億円となった。為替は全分野でプラスに働いているという。

また、2023年度は、第4次中期経営計画の最終年度でもある。ソニーグループ 代表執行役社長 COO兼CFOの十時裕樹氏は、「第4次中期経営計画では、『ソニーの進化』をテーマに取り組んだ。3年間累計の連結調整後EBITDAは5兆1000億円となり、当初目標を19%上回り、第3次中期経営計画期間を42%上回る結果となった。また、金融を除く連結営業利益額の2023年度までの年平均成長率は9%となり、利益を創出する力も着実に向上した」と、その成果について総括した。

  • ソニーグループ 代表執行役社長 COO兼CFOの十時裕樹氏

    ソニーグループ 代表執行役社長 COO兼CFOの十時裕樹氏

一方、2024年度通期(2024年4月~2025年3月)業績見通しは、売上高および金融ビジネス収入は、前年比5.5%減の12兆3100億円、営業利益は同5.5%増の1兆2750億円、調整後OIBDAは同6.2%増の1兆9400億円、調整後EBITDAは同6.2%増の1兆9300億円、税引前利益が同1.1%減の1兆2550億円、当期純利益が同4.7%減の9250億円としている。

  • ソニーグループ 2024年3月期の通期決算概要

  • ソニーグループ 2025年3月期の業績計画

巣ごもり需要以来の好調だったゲーム事業、今期も利益増を狙う

2023年度のセグメント別業績と、2024年度の通期見通しを見てみよう。

ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の売上高は前年比17%増の4兆2677億円、営業利益は16%増の2902億円、調整後OIBDAは21%増の4079億円となった。サードパーティーソフトウェアの増収や為替の影響がプラスに働いたという。

  • 好調だったゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野。今期も利益成長を計画

ソフトウェアでは、2月に発売したライブサービスゲーム「HELLDIVERS 2」が期待を大きく上回るヒットとなっており、5月初旬までの12週間の累計販売本数は1200万本に達し、プレイステーション5向けとPC向けの合算では、2022年に発売した「God of War Ragnarok」の記録を上回ったという。

ソニーグループ 執行役員 経営企画管理担当の松岡直美氏は、「HELLDIVERS 2は、PC向けの当社タイトルとしても過去最大のヒットとなった。マルチプラットフォームのタイトルとして、収益に大きく貢献している」と述べた。

2024年3月のプレイステーション全体の月間アクティブユーザー数は、前年同期比9%増の1億1800万アカウントと、高い水準を維持。プレイステーション全体の総プレイ時間は、3月単月で前年同月比15%増となっており、コロナ禍での巣ごもり需要が大きかった2020年度に次ぐ、史上2番目の記録になったという。

また、2024年度通期見通しは、売上高は前年比2%減の4兆2000億円とした。営業利益は7%増の3100億円、調整後OIBDAは3%増の4200億円としている。2024年6月4日には、子会社であるBungieが拡張コンテンツ「Destiny 2 : The Final Shape」を発売。2023年に買収したFirewalk Studiosからは、2024年に「Concord」が発売される予定であり、ライブサービスゲームの事業拡大にも取り組むという。

  • ソニーグループ 執行役員 経営企画管理担当の松岡直美氏。PC向けタイトルでヒット作が出たことを報告

今回の説明会で松岡執行役員は、「プレイステーションのビジネスモデルは、コンソールサイクルで俯瞰すると、プレイステーション4発売以降で大きく変化した」と指摘した。

「プレイステーション3までのビジネスモデルは、コンソールの世代ごとに新規に販売したハードウェアに対して、ソフトウェアの販売本数を増やしていくモデルだった。だが、プレイステーション4による移行期を経て、プレイステーション5では、コンソールの世代を超えて、ユーザーコミュニティを広げ、プラットフォーム上で、より長くプレイしてもらうモデルに転換している」とする。

また、「プレイステーション4世代では、急速なデジタル化とネットワークサービスの伸長により、利益を大きく成長させることができ、プレイステーション4で積み上げたユーザーベースを受け継いだプレイステーション5では、コロナ禍においては、ゲームタイトルやライブサービスゲームの世界的ヒットもあり、発売当初から、高い水準で、より安定した利益成長を継続している」と述べた。

2023年度のプレイステーション5の年間出荷計画は、年初には2500万台を掲げていたが、これを2024年2月時点で、2100万台に下方修正。結果として、2080万台に留まった。一方で、2020年11月に発売して以降の累計出荷台数は5920万台となり、PS4の同期間の累計出荷台数の6000万台に近い水準になった。2024年度は1800万台程度の出荷を計画している。

  • 出荷台数が伸び悩んでいるとの見方もあるプレイステーション5だが、累計の台数増はPS4に近いペースだという

  • プレイステーション5向けとPC向けマルチプラットフォーム展開した「HELLDIVERS 2」が期待を大きく上回るヒット

  • 今期はライブサービスゲームの事業拡大に取り組む

松岡執行役員は、「プレイステーション5は、コンソールサイクルの後半を迎え、新規販売台数は徐々に減少していくと見込んでいる。だが、継続的に増加するアクティブユーザー数とユーザーエンゲージメントを着実に維持、拡大しており、事業コストのコントロールを強化することで、プレイステーションプラットフォームの収益を、今後も着実に伸ばしていけると考えている。プレイステーションプラットフォームの安定した収益基盤に加えて、近年積極的に強化しているファーストパーティーソフトウェアの売上げを拡大することで、第5次中期経営計画期間のG&NS分野の営業利益は過去最高益を更新する予定である」と、事業成長に強気の姿勢をみせた。

また、十時社長 COO兼CFOは、「注視しているのは『プラットフォームヘルス』である。MAUやプレイ時間が安定して拡大することが重要な指標であり、それによって健全な拡大を戦略の中核に据えている。MAUで見ると、半分近くがプレイステーション4である。コンソール世代のオーバーラップをうまくハンドリングしながら、マネジメントをしていく」と語った。

  • サイクルの後半戦を迎えるプレイステーション5だが、ユーザーエンゲージメントを維持することで安定して収益を出していく計画だ

なお、プレイステーション事業を行うソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)では、2024年6月1日付で、、西野秀明氏がSIEプラットフォームビジネスグループCEOに就任し、ハーマン・ハルストがSIEスタジオビジネスグループのCEOに就任するトップ人事を発表している。2024年3月に、ジム・ライアン氏が社長兼CEOを退任することが、2023年9月に発表されてから、十時氏がSIEの会長と暫定CEOを務めてきた。十時社長 COO兼CFOは、今後もSIEの会長を兼務する。

十時社長 COO兼CFOは、「プラットフォームビジネスとスタジオビジネスに精通した2人の人物を選んだ。経験もあり、才能もある。次世代の経営を担う優れた人材である。SIEの規模が大きくなってきたことや、PSスタジオにおける事業戦略上の重要性が高まってきたことで、2人体制とした。きめ細かな意思決定を、タイムリーに行えるようにした。最高益の更新に向けて、SIE社内のモチベーションは高い」と述べた。

音楽と映画、エンタメ分野が顕著な伸びを見せる

音楽分野の売上高は前年比17%増の1兆6190億円、営業利益は15%増の3017億円、調整後OIBDAは17%増の3687億円となった。

ストリーミング売上げの増加や為替の影響によって増収増益となり、4年連続で最高益を更新。同社6事業セグメントのなかで最大の営業利益を2年連続で達成した。

音楽制作では、Spotify週次グローバル楽曲ランキング上位100曲に、平均して31曲がランクイン。3月29日にリリースしたBeyonceの新作「Cowboy Carter」は、全米アルバムチャートで初登場1位を獲得するヒットとなっている。

また、音楽出版におけるストリーミング売上げについては、リリースから一定期間が経過した音楽カタログの利用機会を拡大したことが功を奏し、2020年度からの4年間で、年平均成長率38%と大きく成長しているという。

2024年度通期見通しは、売上高で前年比4%増の1兆6900億円、営業利益は前年比4%増の3150億円、調整後OIBDAは、前年比8%増の4000億円としている。

松岡執行役員は、「2018年のEMI Music Publishingの完全子会社化を皮切りに、音楽カタログの強化を進めており、管理する楽曲数は3月末時点で624万曲と、過去10年間で1.7倍になった。音楽出版での世界トップシェアを維持している。IPアセットとしての音楽カタログの価値は大きく拡大しており、エンタテインメント事業間でのシナジー最大化などを通じて、これらのIPアセットを活用した収益化の機会をさらに広げていく」と述べた。

  • 4年連続で最高益を更新中の音楽分野。ストリーミング売上げの成長率が目立つ

映画分野の売上高は前年比9%増の1兆4931億円、営業利益は1%減の1177億円。調整後OIBDAは2%減の1712億円となった。テレビ番組制作における納入作品数の減少はあったが、劇場公開作品の増加や為替の影響などによって増収。営業利益は公開作品の増加にともなう広告宣伝費の増加などに微減となった。

2024年度通期見通しは、売上高は前年比1%減の1兆4800億円、営業利益は2%増の1200億円、調整後OIBDAは1%減の1700億円とした。

Crunchyrollが、グローバルでの有料会員数を増加。アニメ作品の海外配給などによる売上成長に加えて、買収にともなう償却費が減少することから、分野全体への利益貢献を見込むほか、映画製作では、人気フランチャイズの続編である「Bad Boys : Ride Or Die」や、Sony Pictures Universe of Marvel Charactersの新作である「Venom : The Last Dance」や、「Kraven the Hunter」などの大型作品が、2024年度に公開されることになり、売上げへの貢献が見込まれる。

一方で、ハリウッドでのストライキによる映画公開スケジュールの変更やテレビ番組作品の納入遅延などが発生し、2023年度の損益へのマイナス影響は約180億円と試算している。また、2024年度は、ストライキによる損益へのマイナス影響がピークになると想定。その影響額として約340億円を織り込んだ。

  • 映画分野はハリウッドのストライキの影響や、テレビ番組制作における納入作品数の減少を織り込みつつも、利益を伸ばしている

  • アニメ作品の海外配給が活況で、Crunchyrollは今期も大幅増益を見込む

  • Bad Boysの続編など、今期公開予定の大作映画

エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野の売上高は前年比1%減の2兆4537億円、営業利益は4%増の1874億円、調整後OIBDAは4%増の2891億円となった。テレビの販売販売台数が減少したものの、為替の好影響や費用削減効果があって増益になった。2024年度通期見通しは、売上高が前年比3%減の2兆3700億円、営業利益は1%増の1900億円。調整後OIBDAは前年並の2900億円とした。

ソニーグループ 執行役員 財務IR担当の早川禎彦氏は、「2023年度は、デジタルカメラと交換レンズが高い商品力を発揮し、増収増益となった。また、テレビとモバイルコミュニケーションでは費用削減などにより、分野全体で期初計画を超える水準の利益を達成できている。レンズ交換式ミラーレスカメラ市場は、中国、日本を中心に高い伸びを示しているが、2024年度下期以降は徐々に落ち着き、その後も安定的に推移すると想定している」と語った。

  • ソニーグループ 執行役員 財務IR担当の早川禎彦氏

イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)の売上高は前年比14%増の1兆5027億円、営業利益は9%減の1935億円。調整後OIBDAは8%増の4414億円となった。2024年度通期見通しは、売上高は前年比15%増の1兆8400億円、営業利益は同40%増の2700億円、調整後OIBDAは23%増の5450億円を見込んでいる。2023年度は、モバイル向けイメージセンサーの増収と為替のプラス影響があったが、減価償却費などの費用の増加によって減益。しかし、2024年度の営業利益は、過去最高益を目指す。

早川執行役員は、「モバイルセンサー事業は、センサーの大判化と高付加価値化、市場シェアの拡大によって成長を続け、2024年度も、3年連続での前年比10%以上の売上成長を見込む。また、最重要課題として取り組んでいるモバイルセンサーの歩留り改善は、計画を若干上回るペースで進捗しており、2024年度の損益影響は前年比でほぼ半減となる180億円程度まで圧縮できる」としている。

金融分野の金融ビジネス収入は前年比99%増の1兆7700億円という大幅な増収となったが、営業利益は45%減の1736億円、調整後OIBDAは44%増の1815億円となった。ソニー生命における市況変動の影響により、金融ビジネス収入がほぼ倍増した。2024年度通期見通しは、金融ビジネス収入が前年比49%減の9100億円、営業利益は同16%減の1450億円、調整後OIBDAは同6%減の1700億円とした。

  • エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野のサマリー

  • イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野のサマリー

  • 金融分野のサマリー

中期経営計画、エンタメとイメージセンサー半導体が成長の鍵に

2024年度からは、2026年度を最終年度とする第5次中期経営計画がスタートしている。

十時社長 COO兼CFOは、「第4次中期経営計画は、投資を先行させ、将来の成長のために多くの種蒔きを実行した。第5次中期経営計画では、蒔いた種をしっかりと収穫することで、サステナブルな企業価値の向上につなげることになる」と位置づけ、「第5次中期経営計画のテーマは、『Beyond the boundaries』『グループ全体のシナジー最大化』とし、グループ全体のさらなる成長に向けて、これまで積極的に進めてきたシナジー実現の取り組みをもう一段進化させることを意図している。継続的な成長を通じて企業価値向上に取り組むという方針に変更はなく、グループシナジーの実現に向けた取り組みをさらに強化しながら、エンタテインメント3事業(G&NS、音楽、映画)と、イメージセンサー事業の中長期的な成長に向けた施策の実行に注力していく」との姿勢を示した。

具体的な経営指標として、2026年度までの営業利益で年平均成長率10%以上(金融分野を除く連結ベース)、3年間累計営業利益率10%以上(同)を掲げた。

「利益ベースの成長をより重視することとし、G&NSとI&SSを中心に連結営業利益額を伸長させる。また。、G&NSのゲームソフトウェアおよびネットワークサービスのほか、音楽、映画、イメージセンサーの各事業の売上成長を、重視する指標に位置づける」とした。

  • 第5次中期経営計画の経営数値目標は、成長率10%以上と営業利益率10%以上

G&NSでは、「コンソール&ビヨンド」をテーマに、プレイステーションコンソールの安定的なインストールベースの拡大と、より豊かなゲーム体験を提供。これまで投資を行ってきた自社スタジオによるファーストパーティーソフトウェアタイトルの充実と、PC展開による事業拡大の2軸に取り組む。

「ファーストパーティーソフトウェアは、2025年度と2026年度に、テントポール的なタイトルがいくつか登場し、ライブサービスゲームも開始する。2024年度を上回るような収入が出てくる」と予想している。

音楽分野では、引き続き、市場を上回る成長を目指し、新興市場への取り組み強化や、音楽カタログの収益機会の拡大、マーチャンダイジングなど周辺ビジネスの取り込みを推進する。「日本のアニメやアーティストのグローバル展開も加速する」という。

映画分野では、エンタテインメント3事業間の連携の核として、グループが持つIPアセットの価値最大化を進めるほか、アニメファンやアニメクリエイターと深くエンゲージしたDTCサービスや、Crunchyrollを成長ドライバーに位置づけ、収益性を伴った成長を目指すという。

  • IPアセットの価値最大化、アニメファンやアニメクリエイターとの深いエンゲージ、Crunchyrollが成長ドライバーに

その一方で、ET&Sでは、環境の厳しいテレビ事業などのリスクを、しっかりとコントロール。収益性が高く、技術による差異化が進んだイメージングおよびサウンド事業での着実な成長と、成長軸事業への展開を加速することで、分野全体での事業ポートフォリオをシフトし、グループを支えるキャッシュ創出を続けるという。

I&SSでは、車載センサーをはじめとしたモバイルセンサーを中心に、高い事業成長率を維持しながら、収益性の向上に注力。投資効率の改善や、開発および製造の再強化に取り組む。また、モバイルセンサーの次を担う成長事業の立ち上げにも長期視点で継続的に取り組む考えを示した。

  • イメージセンサーが好調な半導体事業だが、次を担う成長事業の立ち上げにも長期視点で継続的に取り組む考え

なお、3年間累計の連結営業キャッシュフローは、第4次中計期間を大きく上回る4兆5000億円、設備投資は、イメージセンサー向け投資が減少するため、前中計比で2000億円減の1兆7000億円、戦略投資は、事業成長投資と機動的な自己株式の取得として1兆8000億円を計画している。

一部報道にあったパラマウント・グループの買収については、「当社が発表したものではない」とした上で、「ゲーム、音楽、映画で、IPを軸にしてシナジーを生み出すことはソニーグループのユニークな強みであり、成長戦略の中核になる。ソニー・ピクチャーズは、こうしたシナジーを生み出すハブとして、重要な位置を占めている。この領域で優良な機会があれば、適正な価値と投資リターンが期待できることを前提に検討することは自然な行為である」としたものの、「中長期的な事業成長に向けて、IPの取得やM&Aなどには、引き続き取り組んでいく。特定のセグメントに極端に偏ることなく、投資効率を重視し、戦略面でも厳選した取り組みを行う方針である」とも述べた。