パナソニック デザイン本部は、「→使い続ける展 2024 / MUGE」を、2024年9月28日から10月6日まで、京都の建仁寺両足院で開催している。パナソニックのデザイナーと来場者が、サーキュラーエコノミーを考えるイベントとして企画したもので、2023年10月の開催に続き、2回目となる。デザイン部門が主催するユニークなイベントで、「お客様とともに、モノを使い続けることを考え、これを文化として育む機会になる」としている。

  • 「使い続ける」を「文化」に、パナソニック「→使い続ける展 2024 / MUGE」を見る

    京都の建仁寺両足院で開催している「→使い続ける展 2024 / MUGE」

  • 両足院では座禅体験を行える

  • 美しい景色のなかで展示が行われている

  • 「→使い続ける展 2024 / MUGE」の展示会場の様子

昨年のイベントでは、「使い捨てから脱却し、使い続ける」という考え方と、そのための方法を俯瞰的に提示したのに対して、今年のイベントでは、使い続けるための体験を深掘りし、それによって生まれる新しい価値を探索しているという。

パナソニック デザイン本部トランスフォーメーションデザインセンターの山本達郎氏は、「デザイン部門では、使い続けるために、人と家電の関係性までを見直して、そこで生まれる新しいかたちを模索する取り組みを進めている。たとえば、安全や省エネを重視すると、機器を開けて、ユーザー自身が修理したり、アップデートして使い続けたりといったことが難しくなることが多い。修理して、長く使い続けるという意識が世界的に高まるなかで、それに対応した提案が必要になると考えた。昨年の展示に比べると、製品化からは遠ざかった印象を受けるかもしれないが、ユーザー価値にフォーカスし、使い続けるという原点に立ち返り、デザインをしたものを展示した」と語る。

環境問題が深刻化するなかで、人と家電の関係を、もっと柔軟でオープンなものとして捉えなおすことで、使い続ける新しいかたちを提案するという。

また、「パナソニックのCEコンセプトであるCEUXの実現を目指し、その姿を、様々なお客様に見て、感じて、一緒に考えてもらうきっかけにしたいと考えている。共感や意見をもらいながら、それを技術部門との検討の起点にしたい。また、外部ネットワークを新たに構築し、CEUXの構築を加速して、くらしの豊かさの維持向上と、地球問題や社会課題の解決を両立させたい」とも述べた。

展示のサブテーマに掲げた「MUGE」は、禅の言葉である「融通無碍(ゆうずうむげ)」から引用している。融通無碍には、「すべてのモノが関わり合って調和する」という意味があり、とくに無碍は、「とらわれないこと」を表している。パナソニックグループでは、楠見雄規グループCEOが、2024年のテーマとして「UNLOCK」を掲げ、過去のルールや既成概念を壊し、社員一人ひとりのポテンシャルや能力を解き放って、挑戦する会社にすることを目指しているが、融通無碍には、それと共通する意味もありそうだ。

展示では、モノを使い続けるために、自分で手入れや交換を行う「整」、次の人に使ってもらう「救」、素材として再生する「別」という観点でコンセプト展示を行い、さらに、製品が素材として次の命に受け継がれていく「繋」をテーマにしたリサイクル素材を用いた作品の展示も行っている。

  • パナソニック デザイン本部トランスフォーメーションデザインセンターの山本達郎氏

「整」では、3つのコンセプトモデルを展示。このなかには、「救」の要素も盛り込んだ。

ひとつめのsoundarchetype「KYŌ(響)」は、自分で自由に組み立てられる空間オーディオのコンセプトモデルだ。建築の古材や、欠損のあるB級木材から再生した木をパネル状にして使用。接着剤や釘を使っていないため、簡単に分解ができ、修理やアップデートを気軽に行うことができる。木のパネルを振動させることが音を出し、組み立てる木質や形状、配置などによって音質が変化するため、好みのサウンドに調整できる。また、スピーカーボックスを用いず、物質を振動させるアクチュエーターユニットを使用。展示会場では、窓を開放し、日本庭園に囲まれた両足院ならではの環境に馴染む音を流していた。

「響という言葉は、禅宗では、隠された深い意味を表している。ユーザーが自分で組み立てることで、これまで隠されていたものの構造を理解して、修理やアップデートがより身近なものになることも意図している」という。

  • soundarchetype「KYŌ(響)」

  • 360度で設置することで立体的な音を楽しむことができる

  • 木材パネルを三次元的に組み合わせてユーザーが独自の形状を作り上げ

  • 振動させて音を出す木材パネルは、自分で組み合わせができる

  • 物質を振動させるアクチュエーターユニット

2つめのcoolingarchetype「UN(雲)」は、自由に組み合わせが可能なモジュール式パントリーである。野菜や果物、調味料など、最適な温度によってボックスを分けることができ、統一された寸法モジュールとしていることで、必要に応じて増やしたり、減らしたりでき、レイアウトの変更も可能だ。サイズが小さいため、修理や手入れも簡単に行える。

パントリーの中の食材が見える透明な素材を使うことで、これまで閉じ込められていた食材を美しく保管し、食品ロスを減らすといったメリットにもつながる。

電気で動作する冷蔵プレートなどのデジタル部分と、収納するボックスによるアナログ部分とを分離しており、それぞれを適切なタイミングで交換し、長く使うことができる。

「雲」は、禅宗では「常に変化し続けることの象徴だという。「大きな一つの箱として存在する冷蔵庫も、複数の小さな箱に分割することで、ライフステージに合わせて常に変化させながら使い続けられるといった新たな提案になる」という。

  • 自由に組み合わせが可能なモジュール式パントリーの「UN(雲)」

  • 果物や野菜を最適な温度で保管できる

3つめのAir archetype「SEN(泉)」は、部屋の空気を、ファブリックに通して浄化するというコンセプトだ。緑茶カテキン繊維や光触媒繊維、活性炭繊維、セラミック繊維といった様々なファブリックから必要な機能を選んで、自由にカスタマイズができる。

素材を選ぶことで、空気の浄化やウイルスの不活化、有害物質の除去などに用いることができる。背面には小型のファンを取り付けて、ファブリックの効能を促進し、空気質のデザインにつなげることができる。ファブリックは、家庭の洗濯機で洗うことができ、手入れが簡単だ。「花粉症の季節、子供が生まれたときなど、必要に応じてファブリックの種類をアップデートできる」という使い方を提案する。

「泉」は、禅宗では、心身を清めるものの象徴であり、「機器の中に収まっていたフィルターを外に出し、ユーザーが気軽に手入れをすることができ、きれいな空気で心身ともに健やかになることを意図している」という。

  • 様々な素材を使ったファブリックを用意。用途にあわせて利用する

  • 背面には小型のファンを取り付けて、ファブリックが持つ効能を促進する

「別」という観点では、packaging archetype「JU(寿)」を展示した。

捨てずに何度も使えるパッケージのコンセプトであり、製品が送られてきた際の梱包材が、家の中で製品とともに使われ、ユーザーが製品を送り返すときにはまた梱包材として使うことができる。

「現代の『通い箱』といえるもので、四角い箱だけでなく、筒状や布状など、中に入れるものの形状やサイズに合わせて包み方を選ぶことができる」という。

たとえば、先に紹介した「SEN(泉)」のファブリック素材を巻いて、筒のなかに入れて配送することができる。前面にはスリットが施されており、着物の収納をヒントに、外気が筒の中を通りに抜ける構造で、保存時に湿気対策を行ったり、玄関などに設置して、ファブリックが持つ空気浄化などの効果を生かしたりできる。

また、「KYŌ(響)」の木材パネル部分をファブリックで包んで発送するという用途も想定。使用時にはパネルのホコリを拭き取ったりできるメンテナンスクロスとして利用できる。ファブリック素材は手洗いが可能だ。

「寿」という言葉は、禅宗では「長く続くいのちの祝福」を表すという。製品も梱包材も何度も使えるようにすることで、最後まで価値を活かすことを意図している。

  • 竹筒のなかに入れて配送できる。前面のスリットにより、ファブリックの保存や、空気浄化の用途にも利用できる

  • ファブリックで包んで発送することができる。ホコリを拭き取るメンテナンスクロスとして利用できる

「繋」においては、material installation「RO(露)」を展示した。

再生素材を使ったインスタレーション作品であり、再生素材が形を変え、次の命へとつながっていく様子を、アンビエントな音楽とともに表現している。

「露」は、禅宗では、むき出しになった本質を意味するという。「新しい製品へと生まれ変わる前の一瞬、むき出しになった素材の本質的な美しさを味わってもらうことを意図しているという。

具体的には、エアコンのコンプレッサー部に使用されていた銅のモーターコイルや、ペルチェ式冷蔵庫に使用されていたアルミの放熱板、洗濯機のベース板に使用されていたアルミ塊、エアコンの室外機に使用されていた銅と真鍮の冷媒配管、洗濯機の小型モーターに使用されていた銅のエナメル線、大型家電のリサイクル過程で発生するプラスチック材を展示した。

これらは、家電リサイクル拠点である兵庫県加東市のパナソニック エコテクノロジーセンター(PETEC)において解体され、再生された素材であり、デザイナーがPETECを訪れて、作品に利用できそうな素材を選び、外部のデザイナーとともに仕上げた。

  • 自然と解体された部品が融合した作品

  • 使用済みの銅のモーターコイルを用いた作品

  • 再生樹脂を使った作品

  • 3つの作品を展示。いずれも再生素材を利用しており、建仁寺の「〇△□乃庭」と同じ、デザインを〇、△、□で構成

  • 再生素材となったガラスの粒。畳の下にスピーカーを設置し、音に気反響して粒が動きでデザインを生み出す。素材が次に生まれ変わる前に姿を表現している

  • ガラスの粒は、離れとなる茶室で展示をした

パナソニックグループでは、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を打ち出しており、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立を目指している。その行動計画である「GIP(グリーンインパクトプラン)2024」では、資源やサーキュラーエコノミーに関する指標を掲げ、工場廃棄物のリサイクル率で99%以上、2024年度までの3年間での再生樹脂の使用量を9万トン、CE型事業モデルおよび製品では13事業での対応を目標にしている。

パナソニックグループによるサーキュラーエコノミーの実現に向けた新たなものづくりの設計や、製品の届け方のあり方など、さまざまな観点から検討を進めており、今回の「→使い続ける展 2024 / MUGE」では、その原点もいえる姿を披露したともいえる。

「企業の一方的な思いだけでなく、お客様とともに、モノを長く大切に使い続ける文化の醸成が不可欠であると考えている。来場者との対話を通じて、多くのヒントを得たい」としている。

なお、「→使い続ける展 2024 / MUGE」参加は無料だが、サイトからの事前予約が必要だ。予約申し込みサイトは、https://ce-exhibition2024.peatix.com/

展示会場では、パソナニックグループのデザイナーとの対話ができるようになっている。