キヤノンのデジタルカメラの販売が増加に転じている。
キヤノンが発表した2023年(2023年1月~12月)連結業績によると、カメラの売上高は前年比6.8%増の5446億円となり、年間出荷台数は前年比1%増の288万台に達した。キヤノンの専務執行役員 経理本部長の浅田稔氏は、「カメラの需要は底堅く推移した。競合各社の製品供給量が増加し、価格競争が激化するなかでも、ミラーレスカメラの比率を高めながら、前年から微増の288万台を販売し、売上げを伸ばした」と総括した。
国内販売を担当するキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)でも、「レンズ交換式デジタルカメラは、新型コロナウイルス感染症による制約が徐々に緩和されたことによる撮影機会の増加や、2022年12月に発売したEOS R6 MarkⅡ、2023年3月に発売したEOS R50、4月に発売したEOS R8、6月に発売したEOS R100などのEOS Rシリーズの販売台数の増加により、売上げは堅調に推移した」と説明している。
また、キヤノンのネットワークカメラの2023年度の売上高は前年比7.9%増の3170億円となり、「景気減速によるインフラ投資の抑制が懸念されたが、安心、安全を求める人々のニーズが依然強いことが好調の背景にある」とした。
カメラおよびネットワークカメラを含むイメージングの売上高は前年比7.2%増の8616億円、営業利益は15.0%増の1266億円と増収増益となっている。
2024年度(2024年1月~12月)のイメージングの見通しは、売上高は前年比4.5%増の9008億円、営業利益は1.1%増の1472億円と引き続き増収増益を計画。そのうち、カメラは売上高が前年比3.7%増の5650億円、ネットワークカメラは5.9%増の3358億円を計画している。
「カメラは、ラインアップの拡充をさらに進めながら、ミラーレスへのシフトを加速するとともに、プロダクトミックスの改善により成長を目指す。また、ネットワークカメラは、多様な製品ラインアップとソフトウェアで拡大する需要を確実に取り込み、2024年度も売上げを伸ばす」と述べている。
一方、プリンティングの2023年度実績は、売上高が前年比3.2%増の2兆3461億円、営業利益は7.5%増の2283億円となった。
そのうち、プロダクション事業では、市場成長が続いていることも影響し、カットシート機のimagePRESS Vシリーズや、大判プリンタのColorado Mシリーズが、販売台数を大幅に伸長し、2桁の成長率を達成。オフィスにおける中核のプリンティング機器としての需要が底堅いオフィス複合機も、売上げを伸ばした。一方で、レーザープリンタとインクジェットプリンタは、在宅需要のピークアウトに加えて、中国や欧州での景気悪化の影響を受けて市場が縮小。さらに、競合との価格競争が激化した影響もあり、売上げが減少したという。
2024年度は、売上高が前年比1.8%増の2兆3890億円、営業利益は12.1%増の2559億円を計画。プロダクション事業は、4年に一度のペースでドイツで開催される国際的展示会「drupa 2024」を活用した訴求のほか、印刷会社の声を取り入れて取り組んできた画質の向上や、生産性の高さといった強みを生かして、売上拡大を目指す。また、オフィス複合機は、現製品の好調な受注に加えて、製品ラインアップの強化により、シェア拡大を目指す方針を打ち出した。「2024 年も、カラー機を中心に販売を増やしていく計画である。稼働台数も増加傾向にあり、カラー機の稼働台数をさらに増やすことで、利益率の高い消耗品販売につなげていく。また、原価を低減した新製品の投入と、コストダウン活動の加速により、利益率を高めていく」と述べた。
さらに、レーザープリンタは、前年度の売上げが大きく減少するなど、長期化していた出荷調整が終了したと判断。増加に転じる見込みであるほか、インクジェットプリンタも、大容量インクモデルのラインアップを完成させることで、販売台数を伸ばす計画を打ち出す。
同社によると、2024年度の販売台数は、オフィス複合機で前年比1%増、レーザープリンタで13%増、インクジェットプリンタで2%増を計画している。
キヤノン全体の2023年度の連結業績は、売上高が前年比3.7%増の4兆1809億円、営業利益が6.2%増の3753億円、当期純利益が8.4%増の2645億円となり、売上高は過去最高の2007年に次ぐ水準となり、3期連続での増収増益を達成した。
各国におけるインフレ抑制のための金利高止まりや、不動産市況の悪化による中国経済の急激な減速、地政学リスクの高まりにより、世界的に需要の弱含みが続いたものの、コロナ禍の状況から、社会が正常化し、部品不足や物流逼迫の解消が進展。上昇を続けていた部品や物流価格も落ち着きを見せ、下期からコストダウンが進んだこともプラスに働いた。また、同社では売上げの約8割を海外が占めており、円安のプラス影響を受けたことも見逃せない。
また、全社売上高に占める新規事業の構成比は28%に拡大。2025年度の目標である30%に近づく水準にまで上昇。事業ポートフォリオの改善は着実に進んでいることを強調した。
2024年度の連結業績見通しは、売上高が前年比4.0%増の4兆3500億円、営業利益が15.9%増の4350億円、当期純利益が15.3%増の3050億円とし、4期連続増収増益と、営業利益率10%を目指す。
世界経済は、2023年度よりも低い成長に留まると予測するものの、半導体露光装置やメディカル、ネットワークカメラ、商業印刷の各領域においては、顧客ニーズの拡大によって市場成長が続くと予測。開発や生産、販売の経費構造を全面的に見直し、経費率を最適化するプロジェクトを、今後2年をかけて推進することで、収益性の向上につなげる考えだ。
なかでも、インダストリアルの半導体露光装置は、パワーデバイスや生成AIに使われるGPUの先端パッケージング向け製品を中心に、販売台数を247台まで大きく伸ばす計画であり、売上げ、利益ともに大幅な増加を見込んでいる。「半導体露光装置では、他社にはない強みを持つ当社製品への受注が増えており、すでに売上計画の7割まで積み上がっている」という。
2024年には、半導体露光装置の新工場建設をはじめとして、2400億円の成長投資を行う計画だ。