原田眞人監督×安藤サクラが初タッグを組んだ、映画『BAD LANDS バッド・ランズ』が現在公開されている。黒川博行氏による小説『勁草』を実写化した同作は、特殊詐欺の世界を舞台にしたクライムサスペンスエンタテインメント。犯罪グループの元締めを補佐するネリ(安藤)、そして弟のジョー(山田涼介)は、ある夜、思いがけず“億を超える大金”を手にしてしまう。犯罪組織や警察、様々な思惑が絡み、物語は転がっていく。
今回は、主演の安藤と原田監督にインタビュー。実は安藤が小さい頃に出会っていたという2人の初対面の話や、女優・安藤サクラの魅力、さらに今回安藤とバディを組むことになった弟役の山田涼介についても話を聞いた。
■小さな安藤サクラに、原田眞人監督「物怖じしなくて元気がいいな」
――日本の映画界を引っ張るお二人が初タッグとなりました。
原田:実は最初に会ったのは安藤さんが小さい頃だったんです。その時の印象と全く違って、今はもう大女優の風格があるなと。とにかくリハーサルの段階で「ああ、すごいな」と思いました。彼女を見ていると、僕が脚本を書いてる時にイメージしたネリ以上のものを出してくれるから、安藤サクラをそのまま活かしていきたいなという気持ちにさせてくれましたね。
――作中でも、小さい頃のネリ=“ちびネリ”が出てきますが、まさにその頃をご存知だったんですね。
原田:僕自身がちびネリを知っていたという(笑)。湯布院映画祭にご家族で来てた時にお会いしたんですけど、もともとファミリーコネクションみたいなものもあって。(安藤の父である)奥田瑛二さんは、僕の映画には出てもらったことないんだけど、僕が『スター・ウォーズ』の吹き替え版の演出をやったときに、ルーク・スカイウォーカーの声をやってくださっていた。
安藤:それ、すごいですよね(笑)
原田:その時「一緒にやろうね」と話してたんだけど、スケジュールが合わなかったり。そんなことがあって、ご家族とお会いした時には、活発なお姉ちゃんと妹だなという印象がありました。「いい子だな。物怖じしなくて元気がいいな」と。それで「あの頃はちびネリだったけど、あの子がこんなに大きくなったなんて……」と言うと、自分がものすごく年をとったなという気持ちになってしまうけど(笑)。スッとつながって僕の中に入ってきた感覚はありました。いつも安藤サクラという存在を意識していたところはあります。
安藤:1度、東京国際映画祭のレッドカーペットを歩く時にも、お話したのを覚えています。
原田:その時に素足を見せてくれて(笑)
安藤:私、足の指がすごい開くんです(笑)。ずっとヒールを履いてられないので、歩く前後は裸足で歩いてることが多くて。
原田:その特技をいつか映画で使いたいねと話していたのが、出演オファーの始まりでした。でも、今回使わなかったね。次の時に使おう(笑)
安藤:監督は、そういう私自身にある部分を見つけて演出の中で「やって」とおっしゃるので、すごくドキッとするんですよ。ちょっと気恥ずかしいところもあるんですけど、現場で出てくる演出がネリという役柄と私を無理なくつなげてくださって、面白かったです。
――山田涼介さん、生瀬勝久さん、宇崎竜童さん、淵上泰史さんと色々な男性が演じるキャラクターが出てきますが、みんなそれぞれの感情でネリに夢中になっているところがあるのかなと思いながら観ていました。監督自身も安藤さんに夢中になっていたんですか?
原田:それはもう、1番のファンでした。安藤さんが演じるネリを見ながら、どう記録していくかというのが、本当に楽しい作業だったんですよ。あとはやっぱり涼介と並べた時に起きるケミストリーというか、2人の掛け合いが面白かったし、生瀬さんとも面白いし、宇崎さんとも面白いし。さらにはサリngROCKとか天童(よしみ)さんといった大阪勢がどんどん彼女を責めていくわけで、そこに大阪弁で対抗していかなければいけない。僕はドキドキしながら見ていたんですが、ものすごく特訓してくれて、完璧でした。
――やはり、ずっと撮っていたくなるような魅力が安藤さんにあるということでしょうか?
原田:脚本をよく読み込んで、役を自分のものにして、さらにそこからよく考え、ものを見て相手を見ている。本能的なものもあるけれども、女優としてのインテリジェンスが原点にあって、すごいなということをずっと感じていました。
安藤:恐縮ですけど、嬉しいです。
――逆に、安藤さんから見て改めて原田監督はどのような印象でしたか?
安藤:新鮮で、今まで味わったことのない現場でした。6年かけてこの作品と向き合っていらしたというのを伺って、納得したというか。台本の重みというか詰まり具合がすごいんです。初見で台本を読んだ時は、描かれている凝縮された世界を自分の想像力で具体的に広げていく作業に、丸1日以上の時間がかかりました。だからこそ、撮影現場で生まれるものに対してものすごく軽やかで、役者に対する演出一つ一つが新鮮で驚きがあるんじゃないかなと。「そうくるか」というアドリブ的な演出が多くて、こんなに軽やかで神聖な気持ちになれる演出を受けたのも、目にしたのも初めてでした。もともと思い描いていたものに基づいて、すごく大事に作っていくのかなと思いきや、根本があるからこそ、新しいものをどんどん生み出していけるんだなと感動してびっくりしましたし、めちゃくちゃかっこいいなと思いました。作品自体も、重いテーマなんだけど、軽やかさも含めてフレッシュな感覚で観られるのがすごいです。
■山田涼介とのバディで生まれたケミストリー
――安藤さん演じるネリと、山田さん演じるジョーという2人のバディ感も素敵でした。こちらも初共演とのことで。
安藤:お話いただいた時に、ものすごく楽しみで。最初は「あんなに美しい方と並んで、私で絵になるかしら」という不安もあったんですけど、お会いしてみたら本当に人間らしい方でした。ジョーのだらしなさとか、人間らしい息遣いが感じられるようなお芝居をされるので、そこにも助けられたし、魅力的なジョーと一緒に生きられて楽しかったです。
原田:原作の2人は、バディになりそうでなれなかった関係なんですよね。だからこそ、映画ではバディにしてあげようという気持ちもあって。実は涼介の方が、先にキャスティングが決まっていたんです。『燃えよ剣』で涼介と一緒にやって、あれだけ素晴らしい沖田総司を演じたのに、一つも賞が獲れなかったのはおかしいだろうという怒りもあり。それから、「沖田総司が現代に蘇ったとしたら、このタイプだろう」という思いもありました。安藤さんがネリを演じると聞いた時には、彼はもう飛び上がって喜んで、すごくやる気まんまんでしたよ。現場では2人とも、脚本に書かれたことだけじゃない、セリフの間のニュアンスがすごくいいから、いろんなアドリブができました。それもしつこくなくて、本当にそのキャラクターの中で生まれたケミストリーが画面に表れている。僕はモニターでずっと見ていて、笑い声を出さないように抑えていました(笑)
安藤:監督は、山田くんへの無茶ぶり演出が多かったと思います。
原田:いろいろ事件を起こしちゃった後に、ネリが出す指示をジョーが動き回りながら繰り返すんですよね。(『クライマーズ・ハイ』の)「チェック、ダブルチェック」みたいな感じで(笑)。現場で彼が敏感に反応してくれるし、それに対して安藤さんも反応して、その連鎖が楽しかったです。
安藤:ジョーはすごくアホでかわいらしいんです。だからそういう突拍子もないことをしても全然違和感がないというか。うまい具合に全部がぴたっと合わさって、見たことのない山田涼介を見ました。
――普段の歌って踊っている姿とのギャップも感じられたんですか?
安藤:撮影が終わってホテルでテレビをつけたら、山ちゃんが歌って踊ってるんですよ。それこそ「ギャップを感じるのかな」と思ってまじまじと見ていたら、山ちゃんはどんな時でも嘘がないところがすごいんだと驚きました。演技している時も、歌って踊っている時も違和感がないというか、彼の人間性や、彼自身が持つものが魅力として出ている気がしました。
原田:どんな役をやっても、何をしていても本当に嘘がない。それは彼の魅力でもあるし、素晴らしさですね。
安藤:露出があるシーンに対しても、気を使って鍛えたりするのかなと思ったら、「鍛えてるような役でもないし、あえていいっす」と言ってて、かっこいいなと思いました(笑)
――それでは、最後に映画の見どころについて改めて教えていただければ。
安藤:私は映画ファンにも山田ファンにも突き刺さるような山田涼介を見て欲しいなと思いますし、善とか悪ということより、出てくるキャラクターすべての生き様を観ていただきたいなと感じた映画です。
原田:生きにくい時代ですよね。その時代を生き抜くという1人の女の子の決意、最底辺から頑張っていくところはぜひ見てほしいですし、特殊詐欺の世界を背景にしているけど、家庭劇なんです。その部分で、バッハの「サラバンド」を使ってます。音楽とネリの生き様がリンクするところもぜひ楽しんでいただきたいです。
■安藤サクラ
1986年2月18日生まれ、東京都出身。2006年に女優デビュー。映画『百円の恋』(14)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞ほか数々の賞を受賞し、『万引き家族』(18)で自身二度目となる日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。さらに、映画『ある男』(22)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞に輝くなど映画、ドラマなど映像作品を中心に第一線で活躍。主な出演作は、NHK連続テレビ小説『まんぷく』(18-19)、ドラマ『ブラッシュアップライフ』(23/NTV)、映画『0.5ミリ』(14)、『白河夜船』(15)、『追憶』(17)などがある。公開待機作に映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』(10月13日)、映画『屋根裏のラジャー』(12月15日)を控える。
■原田眞人監督
1949年7月3日生まれ、静岡県出身。黒澤明、ハワード・ホークスといった巨匠を師と仰ぐ。1979年に、映画『さらば映画の友よ インディアンサマー』で監督デビュー。『KAMIKAZE TAXI』(95)は、フランス・ヴァレンシエンヌ冒険映画祭で准グランプリ及び監督賞を受賞。さらに映画『関ヶ原』(17)では第41回日本アカデミー賞優秀監督賞、優秀作品賞などを受賞。近年の主な作品は、映画『駆込み女と駆出し男』(15)、『日本のいちばん長い日』(15)、『検察側の罪人』(18)、『燃えよ剣』(21)、『ヘルドッグス』(22)などがあり、これまでに数多くの作品を手掛けている。