パナソニック ホールディングスは、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発。神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)内に新設したモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT III」で、2024年11月29日まで、1年以上に渡る長期実証実験を開始したと発表した。
住めば自ずとエネルギーがうまれる家
Fujisawa SSTに新設した新モデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT III」は、三井不動産レジデンシャルによるもので、同社では、2017年9月から、時間価値と空間価値の向上を目指したFuture Co-Creation FINECOURT、2019年2月からは、働き方改革によって創出した時間の有効活用をコンセプトとしたFuture Co-Creation FINECOURT IIを、Fujisawa SST内に展開。今回が第3弾となる。
Future Co-Creation FINECOURT IIIでは、「心身のウェルネスを、五感覚醒などを通じて、知的・社会的にポジティブに能動化することができる住まいを実現する」ことを目指しており、「住めば自ずとエネルギーがうまれる家」をコンセプトとしている。
SDGsへの取り組みに加え、在宅ワークの増加による新たな生活様式の提案、カーボンニュートラルの推進といった社会課題解決を目指して開発したモデルハウスで、建築環境SDGsチェックリスト評価に基づいたテクノロジーや設備を導入し、ウェルビーイングを実現するライフスタイルを提案する。
ペロブスカイト太陽電池などを利用した再生可能エネルギーの創出や、電気自動車の電力を家庭へ供給するV2H(Vehicle to Home)と連動させた蓄電システム、ルームエアコンと熱交換気ユニットを組み合わせた全館空調熱交換気システム「withair(ウィズエアー)」の採用などによって、脱炭素社会の実現に貢献しており、LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅認定を取得しているという。
また、高品質ステレオスピーカーライト搭載LEDシーリングライトを用いた五感覚醒の癒し空間や創造空間を用意。ガラス真空貼り合わせ技術によって、高い透明度を実現した透明有機ELディスプレイにより、背景が透けて見えることで、空間を遮断せずにリビングに溶け込む環境も提案している。
さらに、アブラヤシの廃材を再生利用したPALM LOOPボードによる家具の展示のほか、パナソニックFUTURE LIFE FACTORYと日テレR&Dラボが開発したデジタルミラーのミロモも導入。ミロモでは、コロナ禍でのくらしの課題であるストレスの悪循環の解消を目的に、日々のくらしのなかでは気がつかない間に蓄積しているストレスを可視化し、エクササイズなどの提案を行い、ストレス解消につなげる。
早期量産を目指すパナソニックのペロブスカイト太陽電池
Future Co-Creation FINECOURT IIIで実証実験を行うパナソニック ホールディングスのガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、ガラス基板上に発電層を直接形成することで、透過度を持った「発電するガラス」建材を実現。様々な建築物への利用を想定して、研究開発を進めているところだ。
今回は、幅3876mm×高さ950mmの2階バルコニーの前硝子部分に、15cm角モジュールをベースにしたグラデーション柄の半透明型ペロブスカイト太陽電池を設置し、長期安定性や耐久性、発電性能、発電効率などについて検証し、これを開発部門にフィードバックすることで、早期の量産化につなげたいとしている。
ペロブスカイトは結晶構造の名称で、有機と無機のハイブリッド構造となっているのが特徴だ。これを発電部に採用することで、有機材料が持つ加工性や柔軟性、低温形成といった特性と、無機材料が持つ優れた半導体特性による高効率を両立した太陽電池を実現できる。
パナソニックグループでは、有機ELディスプレイの生産で培った独自のインクジェット塗布製法と、レーザー加工技術を組みあわせることで、サイズや透過度、デザインなどにおいて自由度を高め、カスタマイズにも対応できる点を特徴としている。
パナソニック ホールディングス テクノロジー本部マテリアル応用技術センター1部の金子幸広部長は、「ガラスとして使われている建材の上に、直接、インクジェット塗布を行い、製造することで、ガラス建材としてそのまま利用することができる。また、レーザーで加工することで、透過度をコントロールできる。窓などへの利用では透過度を高め、壁への利用では透過度を低くすることが可能になるほか、窓の上部分の透過度を高め、下部分を透過度を低くするといったグラデーションも可能であり、設置場所にあわせた加工が可能になる。また、建築物に最適なサイズにあわせた生産ができる」とする。
窓に設置する場合には、二重サッシの内側部のガラスにペロブスカイト太陽電池を塗布することになる。
その一方で、「パネルを大型化する際には、効率化の悪化が課題となるが、インクジェット塗布製法により、均一な面を形成できる点が強みになる。今後は、結晶シリコン系太陽電池と同等の耐久性を目指すことになる」とした。
開発したペロブスカイト太陽電池は、従来の結晶シリコン系太陽電池と同等の発電効率を有しており、800cm2以上の実用サイズのモジュールにおいては、世界最高レベルの発電効率となる17.9%を実現している。また、生産時のエネルギー消費が、結晶シリコン系太陽電池に比べて数分の1と少ないため、その点でも地球環境に優しいという。
設置場所の制約をクリアする「発電するガラス窓」
パナソニック ホールディングスの金子部長は、「場所を選ばない再エネとして、太陽電池に対する需要は増加しているが、日本では設置場所の制約が課題となっている。また、日本では、第6次エネルギー基本計画により、2050年には、すべての住宅、建築物に、太陽光発電設備を設置することも見逃せない動きである」としながら、「ビルの屋上や屋根では、設置場所が限られるが、窓や壁などに設置すれば範囲が広がる。場所を選ばず、面積の制約がない設置方法のひとつとして、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は有効である。5年以内に量産化を目指しており、窓や壁面の太陽光発電を利用した創エネの普及によって、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していく」と述べた。
パナソニックグループでは、あらゆる建設物の窓や壁面など、ガラスが利用される場所に利用することを想定しており、住宅のバルコニーや手すり、店舗のショーウインドウ、施設の天窓や庇、外壁や天井のスパンドリルなどへの採用を見込んでいる。
パナソニックグループでは、2022年4月に発表したグループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」のなかで、新事業や新技術による社会へのCO2排出量削減貢献インパクトのひとつとして、ペロブスカイト太陽電池を位置づけている。
「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池によって、CO2排出量や電気代の削減、省エネ化やZEB、ZEH規制への対応、不動産価値や賃貸料の向上、停電時の対応などのレジリエンス向上に貢献できる。建築業界やエネルギー産業において、先進性や革新性がある新たなソリューションとして選択してもらうことを目指したい」としている。
Fujisawa SSTは、1961年、神奈川県藤沢市に、パナソニック初の関東地区の工場として進出した藤沢工場の跡地に開発した住宅を中心とした郊外型スマートタウンであり、2014年4月に街びらきした。約19haの敷地面積に、600戸のスマートハウスをはじめ、2000人以上が居住。2024年に全施設が完成する予定だ。
藤沢市と18団体で構成される街づくり協議会が推進するスマートシティプロジェクトとなっており、「施設や住宅、インフラありきではなく、スマートライフを実現するために必要な空間設計、サービスの提供、コミュニティの形成など、くらし起点で、継続的に発展していく街づくりを進めてきた。同時に、工場跡地の新たな地域貢献のあり方を目指したいものでもある」(パナソニック オペレーショナルエクセレンス ビジネスソリューション本部スマートシティ推進部の荒川剛部長)という。
Fujisawa SSTでは、産官学や住民との連携によって、各種新規サービス創出活動を展開しており、これまでに70件を超えるトライアルを実施。自動配送ロボット実証実験なども行っている。