先日IntelのハイエンドであるCore i9-13900KSの性能評価結果(記事はこちら)をお届けしたが、これに引き続き今度はAMDのハイエンドであるRyzen 9 7950X3Dの性能評価結果をお届けしたい。

  • Ryzen 9 7950X3Dを試す - AMDの頂点、Core i9-13900KSとの直接対決で性能検証

    Photo01: 3D V-Cache搭載Ryzen 7000シリーズの性能を検証する

片方向のDieのみ3D V-Cacheを搭載

ベンチマークの結果をご紹介する前に、まず仕組みについて簡単にご紹介したい。今年のCESにおけるAMDの基調講演の紹介(記事はこちら)の中で筆者は「Ryzen 9については(2)の工程を省き、つまり32MBの3D V-CacheのダイをZen 4のダイの上に載せる格好になっている。」と書いたのだがこれは間違いで、片方のダイは32MB L3のまま。もう片方のダイにのみ64MBの3D V-Cacheを搭載するという非対称構成になっていた(Photo02)。この理由について、「片方だけに3D V-Cacheを乗せてもさして性能に差は無かった」そうだが、AMDとしては

  • 3D V-Cacheなし
  • 32MB V-Cache搭載
  • 64MB V-Cache搭載

の3つのダイを作るのは嫌だったようだ。まぁ極限までコンポーネントを減らす事で歩留まりを引き上げると共に柔軟性を最大限に確保するのがAMDの基本方針だからこれは当然理解できる。

  • Photo02: 3D V-Cacheが搭載されているダイはメモリアクセスの頻度を大幅に減らせる半面、3D V-Cacheを搭載しているので温度を余り上げられない(=動作周波数を上げにくい)。一方搭載されていないダイは熱的な制約がその分少ないので動作周波数を上げやすいという訳だ。同じダイでありながら、性格が異なる特性になったのは面白い。

ただそうなると、2つのダイの扱い方に差をつける必要がある。マルチスレッドでフルに動く処理(CineBenchとかPOV-Rayなどその最右翼だろう)は両方のダイをフルに使うからいいのだが、シングルスレッド処理が多いもの(3Dゲームがその代表例だろう)では、なるべく3D V-Cacheを搭載したダイを使う様にしないと、折角の3D V-Cacheが遊んでしまう事になる。このあたりは後述するが、AMDはこれをソフトウェア的に対処した。その分OSのインストールの際の処理がひと手間増えてしまったが、ただこれは今回は製品発表前の評価段階だからという話で、製品出荷後以降はもう少し洗練された手順が提供される事を期待したい。

さて問題の性能であるが、これがなかなか興味深い。Photo03はゲーム性能をCore i9-13900Kと比較したもの、Photo04はRyzen 9 7950Xと比較したものだ。既にCore i9-13900KSのベンチ結果で紹介している通り、いくつかのベンチマークはRyzen 9 7950Xでも互角の性能を示しているが、そうでないものに関しては結構大差がついていた。このPhoto03とか04を見ると、そうして大差がついていたゲーム(Watchdog:Legionなどその代表例である)での性能上昇ぶりが著しい訳で、これはなかなか楽しみである。

  • Photo03: 脚注を読んでをGPUに何を使っているのかが書いてない辺りがアレなのだが、前後の脚注からするとGeForce RTX 3080 Tiらしい。

  • Photo04: こちらも恐らくGeForce RTX 3080 Tiを使った場合のケースと思われる。

ところでこれを実現するために、AMDは新しく3D V-Cacheをゲームに最適化するためのドライバ(Photo05)と、PPM(Processor Power Management)用のドライバ(Photo06)である。加えて、新しくCurve OptimizerとPrecision Boost Overdriveが有効になっており(Photo07)、これを併用する事で更に性能を引き上げられるとする(Photo08)。ちなみに効率という意味では、同じスコアを出すために必要な消費電力はRyzen 9 7950Xと比較しても20W以上下がるとしており(Photo09)、このあたりは検証しておくべきだろう。

  • Photo05: ここに書いてあるように、プロファイルを自動的に測定して、利用するダイを3D V-Cacheありを使うか無しを使うかをダイナミックに切り替える仕組みである。

  • Photo06: 通常ゲームなどが動く場合は、より高速なダイ(≒3D V-Cacheを搭載したダイ)を使わせるために、もう片方のダイを休止状態にする。が、この状態でシステム全体のダイのマルチタスクの負荷が増えて来た場合、自動的に休んでいたダイを復帰させてシステム負荷を減らす仕組み。

  • Photo07: ただし倍率設定にはロックが掛かっている。まぁ温度が上がりすぎると物理的に問題が出るので、これは妥当な判断だろう。

  • Photo08: PBO(Precision Boost Overdrive)の効果が余り無いのは、温度上昇を抑えるために低めに閾値が設定されているためだろう。

  • Photo09: まぁこの部分ではCore i9-13900Kでは相手にもならないのは仕方がないところだろう。

最後にラインナップであるが、Ryzen 9 7950X3D及びRyzen 9 7900X3Dは2月28日から出荷開始される一方、Ryzen 7 7800X3Dは4月6日発売との事である。Ryzen 9 7950X3Dの米国での値段はRyzen 9 7950Xと同じ、Ryzen 9 7900X3DはRyzen 9 7900Xの$50増しというなかなか絶妙なお値段である。

  • Photo10:ちなみにRyzen 9 7950X3DとRyzen 9 7900X3Dは、日本では3月3日の午前11時に発売開始との事。

ちなみに日本では3月3日の午前11時に発売開始との事。予想販売価格は

  • Ryzen 9 7950X3D \111,800
  • Ryzen 9 7900X3D \95,800(いずれも税込み)

との事である。

評価機材

今回評価したのは、Ryzen 9 7950X3Dのみである(Photo11~14)。CPU-Z(Photo15)及びWindowsからも問題なく認識された(Photo16)。

  • Photo11: 左に白く”AMD 3D V-Cache Technology”のロゴが入ったのが違い。パッケージサイズそのものはRyzen 9 7950Xのものと一緒。

  • Photo12: カバーが手前に開くのも一緒。CPUの奥はただの空きスペース。

  • Photo13: CPUパッケージは従来のRyzen 9 7950Xと完全に一緒。シルクのみが違う格好だ。

  • Photo14: 当然裏面も差は無し。

  • Photo15: L3が96MB+32MBになっているのが判る。

  • Photo16: これはまだチップセットドライバ類をインストールする「前」の状態である。

ところで今回マザーボードにはMSIのMEG X670E ACEを急遽調達した。これにはちょっと訳がある。AMDによればRyzen 9 7950X3Dを利用するための最小条件は

  • SBIOS based on AMD Combo AM5 PI 1.0.0.5aRC2 + SMU 84.79.215
  • Windows 10 Version 1903 Build 18362.30 with Virtualization-based security not enabled or Windows 11 version 21H2 build 22000.613 with Virtualization-based security enabled

である。OSの方はWindows 11 version 22H2なので問題ないとして、問題はBIOSの方である。Ryzen 9 7950Xの評価に利用したASUS TUF Gaming X670E-PLUSの最新BIOSであるVersion 0821は”AGESA version to Combo AM5 PI 1.0.0.3 patch A+D”ベースのものであり、残念ながら条件を満たしていない。実際装着してもブートしなかった。

今回AMDはこの対応BIOSを4種類のマザーボード(ASUS ROG CrossHair X670 Hero/MSI MEG X670E ACE/ASRock X670E TAICHI/GIGABYTE X670E AORUS MASTER)にのみ提供しており、それもあって急遽MSIのMEG X670E ACEを借用して利用した次第である。多分出荷開始頃までにはこの4つ以外のマザーボードにも、順次対応BIOSが提供される事を期待したい。

話を戻すと、手順としてはまずRyzen 9 7950X3D「以外」のプロセッサ(今回は筆者手持ちのRyzen 7 7700Xを利用)を使ってブート後、BIOSをAMDより提供されたものに置き換え、次いでCPUをRyzen 9 7950X3Dに置き換えた。Photo15はこの時点でのキャプチャである。ただここから幾つか手順がある。

(1) BIOS SetupでAMD CBS(Photo17)→SMU Common Options(Photo18)→CPPC Dynamic Preferred Cores(Photo19)をAutoに設定する。
(2) msinfo32(システム情報)を確認し、Virtualization-base SecurityがRunningになっているかどうかを確認する。日本語だと「仮想化ベースのセキュリティ」が「実行中」かどうかである。もし実行中でなければ、実行中にする(Photo20)。
(3) Microsoft Storeで”Xbox Game Bar”を開き、最新版にUpdateする(Photo21,22)。
(4) AMD Chipset Driverをインストールする。その際にAMD PPM Provisioning File DriverとAMD 3D V-Cache Performance Optimizer Driverがインストールされる事を確認する(Photo23)。
(5) 再起動後、デバイスマネージャを立ち上げてシステムデバイスの下に”AMD 3D V-Cache Performance Optimizer”と”AMD PPM Provisioning File”があるのを確認する(Photo24)。
(6) 「コンピュータの管理」→「サービス」で一覧を表示させ、”AMD 3D V-Cache Performance Optimizer Service”が動いている事を確認する(Photo25)。
(7) Task Managerを立ち上げ、プロセス詳細画面で”amd3dvcacheUser.exe”が稼働している事を確認する(Photo26)。
(8) システム管理者としてコマンドプロンプトを立ち上げ
cmd.exe /c start /wait Rundll32.exe advapi32.dll,ProcessIdleTask
というコマンドを実施する(Photo27)。
(9) 最後にXbox Game Barをもう一度立ち上げ、フィードバックページでKGL Version LoadedとKGL Service Versionが同じであることを確認する(Photo28)。

以上で手順は終了である。ちなみにこの作業終了後にTask Managerでパフォーマンス表示を行うとこんな感じ(Photo29)。先のPhoto16を見比べて頂けると違いが判るかと思う。

  • Photo17: 普段はまず触らない設定項目である。

  • Photo18: この項目そのものは以前からある。触ったのは今回初めてだが。

  • Photo19: 普通はAutoになっている筈なので、これは確認という意味合いが強い。ちなみにこの”CPPC Dynamic Preferred Core”の項目は恐らく今回追加されたものである。

  • Photo20: 幸い筆者の環境では実行中であった。もし無効化されていた場合、「設定」→「プライバシーとセキュリティ」→「Windowsセキュリティ」→「Windowsセキュリティを開く」→「デバイスセキュリティ」→「コア分離の詳細」→「メモリ整合性」をオンにして再起動する。

  • Photo21: Update前のバージョンは5.822.11281.0。

  • Photo22: Update後のバージョンは5.823.1271.0になった。

  • Photo23: 赤枠は筆者が追加。

  • Photo24: これで無い場合はチップセットドライバのインストールが失敗している事になるので、(4)のやり直しとなる。

  • Photo25: ここで実行中でない場合、サービスの開始あるいは再起動を行って実行中にする。またスタートアップの種類が自動になっていなかったら、自動にする。

  • Photo26: これが立ち上がってないとすると、(5)が正常に動作していないことになるので、(5)でサービスを一旦止めてからサービスを再起動することになるだろう。

  • Photo27: ちなみに完了までには結構かかる(ちゃんと時間は測定していないが、30分位だったと記憶している)。

  • Photo28: AMDの説明ではここがVersion 2175だったが、今回試したら2221になっていた。勿論バージョンが同じなら特に問題は無い。

  • Photo29: Photo16の時は、3D V-Cacheが搭載されていないダイを使っているが、ドライバ類のインストール後は3D V-Cache搭載のダイを利用する様に変わった関係で、利用している仮想CPUが#16~#31になっている。

さて表1に今回のテスト機材を示す。今回はCore i9-13900KSの性能評価結果と同じ環境、同じテストを実施している。例外はLinpackで、RyzenではIntelのLinpackは動作しないのでテストを実施していないし、グラフからも省いた(ので、微妙にグラフの番号が前回と異なっている)。

■表1
CPU Core i9-13900K
Core i9-13900KS
Ryzen 9 7950X Ryzen 9 7950X3D
M/B ASUS Prime Z690-A ASUS TUF Gaming X670E-PLUS MSI MEG X670E ACE
BIOS Version 2204 Version 0821 Version E7D69AMS
Memory Corsair emgeance CMK32GX5M2D6000Z36
DDR5-5600 CL48
Video ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XT OC Edition 20GB
Radeon Software Adrenalin Edition 23.1.1
Storage Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 11 Pro 日本語版 22H2 Build 22621.1194

そんな訳でグラフ中の表記は

13900K :Core i9-13900K
13900KS:Core i9-13900KS
7950X :Ryzen 9 7950X
7950X3D :Ryzen 9 7950X3D

となっている。また解像度表記も何時もの通り

2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel

とさせていただく。またゲームの画面設定は前回説明した通りなので、今回は割愛する。

◆CineBench R23(グラフ1)

CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench

  • グラフ1

ということでまずはこちらから。まぁ予想通りであるが、CineBenchでは性能の向上は無いというか、微妙にスコアが下がっている。これは当たり前の話で、Ryzen 9 7950XがBase 4.5GHz/Boost 5.7GHzなのに対してRyzen 9 7950X3DはBase 4.2GHz/Boost 5.7GHzであり、しかもTDPが低いということはそれだけBoost状態の時間が短くなるという話なので、それは性能が落ちるのは仕方がない。勿論Memory Accessに依存するようなアプリケーションであればL3キャッシュの容量増加でこれがカバー出来て性能が上がるシーンもあるのだろうが、少なくともCineBenchではそうした状況ではないようだ。

◆PCMark 10 v2.1.2574(グラフ2~7)

PCMark 10 v2.1.2574
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10

  • グラフ2

  • グラフ3

  • グラフ4

  • グラフ5

  • グラフ6

  • グラフ7

ではPCMark 10では? というとこれも同じ。概ね、Ryzen 9 7950Xの1~2%落ちという結果になっている。勿論厳密に言えば色々差はあって、例えばEssentials(グラフ4)のVideo ConferencingとかProductivity(グラフ5)のSpreadsheetsとかだとその差が非常に少ないのは、それなりにメモリアクセスがあって、これを3D V-Cacheで補える分性能差が少ないのだし、Digital Contents Creation(グラフ6)のPhoto Editingでは最高速になってたりするわけで、効果が無いわけではない。Application(グラフ7)のExcelなどもその例だろう。ただ動作周波数がやや低い分、スコアが若干悪化するのは致し方ないだろう。

◆Procyon v2.1.657(グラフ8~11)

Procyon v2.1.657
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon

  • グラフ8

  • グラフ9

  • グラフ10

  • グラフ11

こちらも結果はPCMark 10と同じようなものだ。Office Productivity(グラフ11)のOutlookの様にむしろ性能が上がるケースもあるだろうが、殆どの場合ではCPUの動作周波数が効果的なケースであり、そうなるとTDPの枠が厳しいRyzen 9 7950X3Dが不利なのは否めない。

◆POV-Ray V3.8.2 Beta2(グラフ12)

POV-Ray V3.8.2 Beta2
Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd
http://www.povray.org/

  • グラフ12

これもCineBenchの延長である。こちらも32MB L3で十分収まる範囲であり、それもあってやはりRyzen 9 7950X3DはRyzen 9 7950Xから若干落ちる。面白いのはCineBench R23だとSingle Threadが0.4%、All Threadで4.3%の低下なのに対し、POV-RAYだとOne CPUが2.3%、All CPUだと0.4%と落ち方の傾向が異なる事だ。とは言え、落ちている事そのものに違いはない。

◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.26.29(グラフ13)

TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.26.29
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html

  • グラフ13

こちらもやはりメモリアクセスの頻度低下よりもCPU Performanceの方が効くようで、Ryzen 9 7950X3DはRyzen 9 7950Xよりもややエンコード速度は落ちる。とは言え、Core i9-13900K/13900KSよりは優秀な成績を残している辺りは、十分という言い方もできるのだが。

◆3DMark v2.25.8056(グラフ14~17)

3DMark v2.25.8056
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark

  • グラフ14

  • グラフ15

  • グラフ16

  • グラフ17

さて、ここからがRyzen 9 7950X3Dの本領発揮である。まずOverall(グラフ14)を見ると、WildLifeとかNightRaid、TimeSpyなどではCore i9-13900K/KSにややビハインドがあるが、負荷が大きくなるほど相対的にRyzen 9 7950X3Dのスコアが上がっている。FireStrike ExtremeとかSpeedWayは一番高速だし、FireStrike UltraとかPortRoyalなどでも性能向上が明確になっている。これはGraphics Testの結果(グラフ15)も同じである。Physics/CPU Test(グラフ16)に関しては、そもそもメモリアクセスがボトルネックになりそうなシチュエーションが考えにくい(NightRaidはちょっと謎)からまぁ妥当だが、Combined Test(グラフ17)では解像度が上がると間違いなくメモリアクセスがボトルネックになる事もあって、FireStrike UltraでRyzen 9 7950X3Dが最高速なのは腑に落ちる。要するに、負荷が高い3Dゲームでは、Ryzen 9 7950X3Dの3D V-Cacheが非常に効果的に働きそう、ということだ。