『VALORANT』をはじめとする競技シーンで輝かしい実績を持つ各タイトル部門や、国内屈指の人気ストリーマーたちを有するクリエイター部門からなる「ZETA DIVISION」。eスポーツチームの枠を超え、ゲーミングライフスタイルブランドとして、ファンを魅了するさまざまなコンテンツで確固たる人気を獲得しています。

着実に成長を遂げる「ZETA DIVISION」は、2021年からスタッフの採用募集を開始しました。「ZETA DIVISION」で働くことに憧れる人は多く、その採用倍率はおよそ300倍にものぼるといいます。

今回は、「ZETA DIVISION」を運営するGANYMEDE株式会社でプロデューサーを務める佐橋明さんにインタビュー。採用に携わってきた佐橋さんの目線から、「ZETA DIVISION」の採用事情や、求める人物像と応募者とのギャップ、eスポーツ業界で今求められる人物像などについてお話いただきました。

  • GANYMEDEでプロデューサーを務める佐橋明さん

採用倍率はおよそ300倍、若年層の応募が大多数を占める

――最初に、佐橋さんのこれまでの主な経歴と、現在の仕事内容を教えていただけますか?

佐橋明さん(以下、佐橋):主な経歴としては、大学卒業後にIT企業に就職し、エンジニアをしていました。そのころ『ハースストーン』に出会ってeスポーツの存在を知り、大会開催などのコミュニティ活動を始めました。その後、会社を辞めてフリーランスをしていた時期に、GANYMEDEから声をかけてもらい、2017年ごろ入社しています。

当時、『PUBG: BATTLEGROUNDS』が流行っていたので、『ハースストーン』の仲間たちとサードパーティ大会に出たら、優勝してしまって(笑)。その経緯で、いつの間にか『PUBG』のプロになっていて、2019年まで選手として活動していました。

現在は、GANYMEDEのイベントやコンテンツの制作を担う制作部で、プロデューサーをしています。ただ、スタートアップなので、制作に限らず、採用を含む人事や、部門のマネージャー、スポンサー営業など、そのとき会社に必要とされるさまざまな業務をしています。

――入社当時から現在までの、GANYMEDEの人数規模や事業内容の変遷を教えてください。

佐橋:入社した2017年ごろは、アルバイトやインターンをのぞくと、僕を含めて4人。当時のGANYMEDEは、まだチーム事業を始める前で、メーカーさんやパブリッシャーさんなどから案件をいただいて、ゲームイベントの制作を行う会社でした。

2018年から「JUPITER」としてのチーム事業が始まり、それが軌道に乗ってからは、チーム事業に一本化しています。そして、2021年7月に「JUPITER」から「ZETA DIVISION」へのリブランディングを行いました。人数としては、現在20人くらいになっています。

――オープンな採用募集を出し始めたのは、いつごろからですか?

佐橋:ちゃんと整備して、募集を始めたのは2021年ですね。その前からずっと募集は出したかったのですが、会社として人を採れるだけの余裕が出てきたのが、そのころでした。

募集職種としては、各部門でマネジメントするマネージャーと、イベントやコンテンツなどを制作をするディレクター、映像やデザインなどのクリエイティブ全般を担うクリエイターと、あとは営業ですね。今は営業の募集がなくなって、それ以外の3つを引き続き募集しています。

――それぞれの職種の採用倍率はどれくらいですか?

佐橋:職種による差はあまりなく、採用倍率は約300倍です。ただ、クリエイター職については、オープンな募集を始めてからまだ採用者は出ていません。

――かなりの高倍率ですね。応募が多い一方で、なかなか求める基準をクリアする人がいないのでしょうか。

佐橋:と言うと、おこがましいですが……。僕らが求めている人物像とは、方向性が違うと感じるケースは多いです。

――新卒と中途の割合など、応募者の傾向について教えてください。

佐橋:新卒と中途の割合としては、新卒が半数を超えます。社会人1~2年目の第二新卒も含めると、8割くらい。年齢でいうと、22歳前後がものすごく多いですね。ただ、新卒と中途で別々に枠を設けているわけではないので、採用は分け隔てなく行っています。

――中途の場合は、どれくらいの年齢層の人が多いですか?

佐橋:27~30歳くらいの方が、ほとんどですね。全体的に若く、40代以上の方からの応募は数人しか見ていません。

――年齢層以外に、例えば男女比などの傾向はいかがですか?

佐橋:あくまで感覚ですが、男性が6割、女性が4割くらいだと思います。

――年齢層も男女比も、最近のオフライン大会の客層と似た印象ですね。

佐橋:たしかに、そうですね。正確に数字を取っているわけではないですが、男性は制作や営業を希望する人が多く、女性はマネジメントを希望する人が多い印象です。

求める人物像と応募者のギャップはどこにある?

――先ほど、求める人物像とのギャップがあるというお話がありましたが、応募者のどういったところにギャップを感じることが多いですか?

佐橋:これはeスポーツ業界であれば共通だと思いますが、絶対に必要なのは熱意です。でも、エントリーシートや面接の段階で、そこが怪しいなと感じてしまう人が結構多いですね。

――エントリーシートや面接で熱意をはかるのは難しそうですが、具体的にはどんなところを見ているのでしょうか?

佐橋:例えば、エントリーシートには「eスポーツシーンをもっと盛り上げたい」とか、「みんなが喜ぶイベントをつくりたい」といった内容がよく書いてあります。でも、面接でそれについて聞いてみると、具体的な内容が出てこないことが多い。そうなると、熱意はなかなか感じられないですね。

この業界で働きたい人なら、何かしら興味を持っている領域があると思うのですが、そこについて掘り下げて、例えば「今どんなところが課題で、どう改善したら良くなると思いますか?」と聞いたときに、意見が出てくるかどうか。新卒の場合は特に、内容の良し悪しをあまり問うつもりはなく、自分なりに考えられる人であることを重視しています。

――ほかに重視している考え方はありますか?

佐橋:まだ会社としてはスタートアップの規模なので、「自分がこの会社を大きくしていくんだ」というマインドを持った人を求めています。これはスタートアップならではのおもしろいところだと思うのですが、なかなかそういったマインドを持つ人に出会えていません。

そういうマインドさえあれば、具体的に良い案が出てくるかどうかは、あまり重要ではないんです。実際に業務に携わって学んでいけば、どんどん良くなっていくはずですから。でも、根底にあるマインドそのものを育てるのは難しいと考えています。

大企業のように研修があって、何でもしっかり教えてもらえるだろうという気持ちで来られると、正直厳しい。この業界ではまだ、そういう教育が整っている会社はあまりないと思いますし、受け身でやっていける環境ではありません。なので、自分で切り開いていく力をすごく重視しています。

eスポーツ業界で、今求められている人物像やスキルは?

――eスポーツチームに限らず、eスポーツ業界では今どんな人物像やスキルが求められていると思いますか?

佐橋:まず絶対に必要なのが、やはり熱意ですね。若い人であれば特に、「どんなスキルを持っているか」よりも、今話してきたようなマインドの部分が大きいと思います。

社会人経験がある人であれば、これまでの経験をeスポーツの世界にどう落とし込んで、より良くしていけるか、というビジネスの視点を持ち込める人が求められていると思います。この業界はまだ新しいので、ほかの業界で通例になっていることを持ち込むだけでも革新的な場合があります。

ただ、どんなにスキルがあっても、eスポーツシーンやコミュニティのことを理解できていないと、ズレたものができあがってしまいます。なので、しっかりアンテナを張れる人であることも、大事だと思いますね。

――eスポーツ業界のなかで職種に関係なく活かせる、汎用的なスキルはありますか?

佐橋:間違いなくあったほうがいいのは、語学力。特に英語ですね。僕は英語ができないので、今すごく苦労しています。

eスポーツは地域を越えるカルチャーなので、海外へのリーチも考えていくべきですが、語学力がないと伝えることができません。英語以外の言語も強みになりますが、最も使うのは英語です。採用においても、語学力はかなりの強みになります。

それ以外は、細かいところだと、運転免許くらいでしょうか。例えば、制作だったら機材を積んで移動したり、マネジメントだったら選手を送迎したりといった場面があります。とはいえ、あったら便利ではありますが、採用の決め手になるほどではありません。

汎用的なスキルとして思いつくのはそれくらいで、とにかく「eスポーツシーンが理解できる◯◯」であることが大事だと思いますね。そこに当てはめるスキルは、マーケティングでも経理でも、どんな内容でもいいです。

――何らかの経験にeスポーツシーンへの理解が掛け合わさると、それだけで貴重な人材になるんですね。

佐橋:そうなんです。その職種を経験したことがある人は全国にたくさんいても、eスポーツシーンへの理解が深いという条件を付け加えると、途端にものすごく貴重な人材になります。そういう人は、eスポーツ業界で引く手あまただと思いますよ。

「eスポーツ業界で働くには、何を勉強すべき?」の答え

――採用の場で、応募者からよく聞かれる質問や、それに対する佐橋さんの答えがあれば教えてください。

佐橋:よく聞かれるのは、「eスポーツ業界で働くためには、何を勉強すればいいですか?」という質問です。これに対する答えの1つは、先ほど挙げた語学力ですね。特に英語は、できて損することはありません。

そのほかの勉強については、何でもいいと思っています。大学生であれば、経済学でも文学でも、どんな内容を学んでもいい。なぜなら、先ほど話したように、何らかの専門的な知識にeスポーツシーンへの理解が掛け合わさると、それだけで得難い人材になるからです。

あとは、ぜひコミュニティ活動をしてほしいですね。採用の場でコミュニティ活動の経験をアピールする人が、僕の感覚ではもっといると思ったのですが、全然いないんです。「eスポーツが好きだから、それに携わる仕事がしたい」と話す人で、実際に何らかのコミュニティ活動をしていた人は、ほぼゼロでした。

――コミュニティ活動とは、例えばどういった活動が当てはまりますか?

佐橋:まずは、オンラインとオフラインを問わず、大会やイベントを開催することが挙げられます。これは僕自身も、『ハースストーン』のコミュニティでやっていました。

それから、自分の好きなタイトルの情報をブログで発信するなど、メディアを使ったコミュニティ活動もあります。SNSだけでやっている人もいますし、最近だとDiscordでコミュニティサーバーを運営する人などもいますね。

そうやって、コミュニティへの愛を持って活動してきた人は好感度が高いです。今eスポーツ業界で面接する立場にいる人は、たいていコミュニティ出身のはずなので、いい印象になることは間違いないと思います。

――ほかに、採用の場面でよく聞かれる質問はありますか?

佐橋:たまに聞かれるのが、例えば「マネージャーさんは、1日の中でどんなお仕事をされているんですか?」といった質問ですね。

――具体的に仕事内容をイメージできていない人が多いのでしょうか。

佐橋:そうです。そういう人に、入社したらどんなことがしたいかを聞くと、「選手が活動に集中できるようなマネジメントをしたいです」と答えが返ってきます。でも、考えてみてほしいのは、選手たちを練習と試合に集中させたら、選手はそれで食べていけるのか、ということなんです。

選手の強さや魅力を、市場価値に落とし込んでいかないと、収益にはつながりません。マネージャーは、選手を活動に専念させるだけでなく、彼らの市場価値をどう高めていくか、つまりファンビジネスとして、どう人気をつけていくかを考えられる人でなければならないと思っています。

――eスポーツチームのビジネスの仕組みを理解している必要がありますね。

佐橋:でも、そこをしっかり勉強して応募してくる人は、あまりいないんです。単純に「チームが強ければ、スポンサーがついてお金が入ってくる」と考えている人は、かなり多い。これは新卒に限らず、社会人経験がある人でも多いです。

マネージャーを例に挙げましたが、職種を問わず、チームや選手を伸ばして収益を得るのは、eスポーツチームにおける仕事の本質的なところなので、そこを意識できているかどうかは大きいです。

ただ、収益ばかりを追い求め過ぎると、人気が伸びないのもまた事実で、コミュニティの感覚とビジネスとしての目線、その両方のバランス感がすごく大事だと思っています。

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「ZETA DIVISION」というブランドが目指す世界

――eスポーツ業界全体ではなく、「ZETA DIVISION」として今求めている人物像について教えてください。

佐橋:まずマインドとしては、熱意とホスピタリティですね。ホスピタリティを重視する理由は、今でこそ20人くらいに拡大してきたものの、まだ「自分の仕事だけやっていればOK」という考え方でまわっていく規模の会社ではないからです。

具体的なところでいうと、昨年から続けてきた採用で、若手の新人はかなりそろってきました。なので今は、数人のチームを見れる少し上のレイヤーの人や、他業界の知識や経験を活かせる人、入ってすぐに自身でワークできる人を特に求めています。

そして、「ZETA DIVISION」が目指す方向性への理解も重要です。ほかのeスポーツチームでは一般的にやられていることでも、僕らはやらないことがいくつもあって、それは「ZETA DIVISION」というブランドが目指す世界にそぐわないからなんですよ。

――目指す方向性とは、「ZETA DIVISION」へのリブランディングを行った際に、代表の西原さんがインタビューで話してくださったところですね。

佐橋:その通りです。「ZETA DIVISION」は、自分たちのことをeスポーツチームではなく、ゲーミングライフスタイルブランドと呼んでいて、そういったこだわりも意識できる人を求めています。あとは、ファッションや音楽など、何かしらのカルチャーに詳しい人も重宝されますね。

僕らが目指す方向性をベースにしつつ、「ZETA DIVISION」というアセットを使って、何かを成し遂げたい人、つくりたい世界がある人にとっては、すごくおもしろい環境だと思います。

  • 「ZETA DIVISION」オフィスの入り口

  • およそ20人のメンバーが働くオフィス

悩んでいるよりも、自分にできる活動から一歩踏み出す

――それでは最後に、eスポーツ業界で働きたいと思っている人に向けて、メッセージをお願いします。

佐橋:新卒などの若い方であれば、悩んでいるよりも、まずは自分から何か動いてみることが大事だと思います。もともとゲーミングカルチャーは、上から与えられるものではなく、コミュニティから生まれるものが本質にあるといえます。

一人ひとりのコミュニティ活動が合わさって、それが大きくなっていく動きは、これまでにもたくさん起きてきました。個人にできることはたくさんあるはずなので、好きなタイトルで自分にできることから、何か活動を始めてみることをおすすめします。

社会人経験がある方に対しては、eスポーツシーンに対する理解が求められますが、それがこの業界に入ってすぐに必要かというと、実はそうではないと思っています。それよりも、シーンのことを理解していくために、アンテナを張る能力があるかどうかが重要です。

それさえあれば、前職で得た経験やスキルを活かせるポジションがあるはずなので、そういう意味では比較的参入しやすいのではないでしょうか。業界のなかで貴重な存在になれる可能性が高いので、飛び込んでみるとおもしろいと思います。

――佐橋さん、ありがとうございました!