ニコンのAPS-Cミラーレス「Z 30」は、Zシリーズで初めてEVF(電子ビューファインダー)を省いてシリーズで最小・最軽量のボディに仕上げるなど、盛り上がるVlogなどの動画撮影を重視した設計のカメラです。このZ 30、映像はビデオカメラでしか撮らないという、頑ななこだわりを今のところ捨てていない落合カメラマンに試してもらいました。一緒に借りてほしいとリクエストがあった交換レンズは、なんと大三元の望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」! 「70-200mmを装着するとZ 30がレンズのリアキャップみたい」とコメントしつつも、確かな手応えと“次の一手”への期待を感じ取ったようです。
EVFは省かれたが、性能に妥協はナシ
カタチから入ってますよね? まずは「やっぱりココでは、フラットボディが欲しくなるよねぇ」でしたよね? 大丈夫。怯えることはない。私は味方だ。正直に言ってくれれば、それでいい。Z 50を2台持っている私だ。悪いようにはしない。まぁ、自分でコレを買うかどうかは、また別の話だがな。フォッフォッフォッフォ・・・。
なじみ深い使用感。これが第一印象だ。オートエリアAFではなく1点選択なら過不足なく動体を追いかけてくれるAF、軽快で案外心地よいシャッター音、そして何より安心感があふれんばかりに山盛りな仕上がり画質。モデル名はマイナス20の「30」だけれど、ニコン「Z 50」のいいところをそのまま引き継いでいるニコン「Z 30」なのである。
素性の良いセンサーのおかげで画質にはお墨付き、ついでにいうなら、高感度画質もすこぶる良好で暗所AFにも不足なしとくれば、同族の某フルサイズ機のごとき「明らかな廉価版」的な手応えもそこにはないということになる。つまり、Z 30はニコンDXフォーマット(APS-Cサイズ)版のミラーレス機として、少なくとも現時点では“最高の性能”を身につけているといっても過言ではないカメラであるということ。まずは、その点に備わる安心感と価値を評価すべきだろう。
Z 30自身は、とりあえずVlogとやらを撮るためのカメラという位置づけのようだ。そのためのフラットボディ・・・なのだろう。ウケている同種モデルがそーゆーカタチだから・・・という事情がある、ないに関わらず、ニコンとしては、ボディ形状の必然性についてはいくらでも説明できるはずだし、そもそもVlog優先の立ち位置に「往年の一眼レフっぽいスタイルは不要」との“決断”も下されていたはず。そう、ひとつ確実にいえるのは、Z 30のカタチは、頑なに一眼レフシルエットを守ってきた「ニコンZ」としては、完全に異端のスタイルでああるということだ。
でも、これは「ニコン1の試行錯誤、ふたたび」ってことではなく、あくまでも前向きなバリエーション展開だろう。Z30の残す前例、実績、足跡は、必ずや未来の「Z」に活かされるハズだ。もっとも、そのチャレンジングなフラットボディのウリとして「バッグに収まりやすいです」というのは、確かに事実ではあるのだろうけど、あえて自慢するところじゃないと思いますけど(笑)。
Z 30って、軽いけれど飛び抜けてコンパクトなワケではないというのが個人的な印象だ。ボディの下に棒みたいなもの(語彙力・・・)をつけて、それを握りながら撮るというスタイルを重視するのであれば、ボディの容積感はもっともっと絞られているべきだとも思う。他社の同種コンパクト系モデルのサイズ感を知っていると、その思いはより強くなったりもするのだけど、いや、でも、こりゃ余計なお世話ですかね。Z 30は、1インチでもマイクロフォーサーズでもないAPS-Cセンサー搭載機なワケですし。そもそも、Vlogとかいうものを楽しんでいないヤカラがアレコレ口をはさむところではないってことは、重々承知しておりますです、ハイ。
存在感のあるグリップを持っての片手撮りがしやすく好印象
一方、太めで握りやすいグリップ部は、よくぞこのまま残してくれましたー! という感じ。そのことが結局、ボディのサイズ感に中途半端な印象を残すことになっているのだけど、カメラとしての操作性全般をグンと嵩上げしてくれているのは事実だ。だから、「そこにバッテリー室があるんだから、グリップは極端に細くできないでしょうが・・・」なんてヤボなことをいっちゃイケマセン。いいんです。あえて太く残しているんです!
グリップの太さがありがたく感じられるのは、Z 30が右手だけで操作をほぼ完結できる「片手撮りおまかせ!」なカメラだからでもある。電源のオン/オフはもちろん、AFフレームの移動や真ん中戻し、撮影画像の再生と拡大&拡大位置移動、さらには主要な設定までもが、片手でラクラク、ホイホイできてしまうのだ。そういう使い方をしているとき、消毒液にまみれ荒れがちな我が右手掌に、Z 30のグリップが頼もしくアピールしてくる存在感としっくり感はかなりのもの。ケガの功名・・・いやいや、冷静に狙い澄まされたボディデザインが確かに活きている。
参考までに、Z 50も操作系の構成はほぼ同一だ。しかし、例えばiボタンの一発押しで呼び出せる「iメニュー」内で被写体認識対象の切り替えができるようになったのはZ fcからなので、Z 50ではできない。バリアングルモニターの採用もしかり。片手撮り適性は、撮影モードダイヤルの操作(Z 50は指一本でも軽く回せるところ、Z 30はクリック感が強くなっている)を除けば、Z 30の方がはるかに上でチョイ羨ましいってのが現実なのだ。違いは小さくとも、片手での使用感には確かな差がある。
そして、EVFがないところも、片手撮りをより身近に感じる(より気軽に片手撮りしがちな)要素なのだと今回、深く再認識することにもなった。ファインダーを覗きながら片手撮りをするってことも、ないことはないけれど、改めて思い返すと、EVFを搭載するカメラであっても、片手撮りをするときって9割9分、背面のモニターを見ながらやっている。なるほど、Z 30で自然に片手撮りをしがちだったのはそういうこと、つまり背面モニターオンリーのカメラだったからなのだ。少なくとも私の場合はね。
というワケで、Vlogに手を染めずとも、難しいことを考えず直感重視でスパスパ切り撮る片手撮りスナップがけっこう楽しいZ 30ではあった。唯一の難点は、頼みのモニターが日中の屋外ではお世辞にも見やすいとはいえないところかな。Zのボディで、その点がこれまで気にならなかったのは、いうまでもなく「EVFで撮影する」という“逃げ”が打てたからなのだけど、Z30はモニターが見にくいからといってEVFに助けを求めるわけにもいかず、日中屋外のモニター視認性については、けっこう深刻な問題であると感じている。屋外での使用をないがしろにするつもりがないのであれば、特にAFフレーム表示に関しては要改善だろう。
素性の良いセンサーを受け継ぐ“兄貴分”の登場に期待がふくらむ
DXフォーマットのZは、このZ 30で同一センサーのモデルを3機種ラインナップすることになった。この素晴らしく素性の良いセンサーに量産効果を与えることには大賛成だ。我々ユーザーにも、きっとステキな効果をもたらすことになるだろうからだ。
それはつまり、Z 50以上の機能を備える「Z 50の次」が、あえて同一のセンサーを搭載することにより、Z 50未満の価格帯でリリースされるのではないかとの期待である。
例えば、仮称「Z 60」は、個人的には、センサーはキャリーオーバーで構わないと考えている。処理エンジンの世代交代により高感度画質と動体AFに一枚上手の実力を与え、同時に手ブレ補正と強力なダストリダクション機構を搭載。その派生として、いわゆる手持ちハイレゾショットに類する解像度アップの手段を備えれば、それだけで十分だ。
そして、それとは別に仮称「Z 70」において、新センサーによる電子シャッター関連の機能向上を実現する。すなわち、「Z 70」には高速性の飛躍的な向上を与えるわけだ。贅沢はいわない。Z 9と同等のプリキャプチャ機能が備わればそれでいい(十分ゼイタク?)。Z 50のハンドリングでそんなことができたら、むっちゃ楽しいだろうなぁ。
ってなワケで、Z 30は「DX Z」のそんな未来予想図の礎にもなり得るモデルであるというのがここでの結論。だから、Z 30は人気者にならなければならない。近い将来に登場してほしい仮称「Z 60」や、仮称「Z 70」のためにも、Z 30はバンバン売れてくれなければならないのであ~る。なので、みなさん頑張って! 私はその間、安心して仮称「Z 70待ち」を決め込みますので(サイテー笑)。
落合憲弘
おちあいのりひろ
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