欧州中央銀行(ECB)のファビオ・パネッタ理事が8日、IESEビジネススクールのカンファレンスで講演した際、ECBのリテールCBDCに関する現在の調査概要を説明した。パネッタ氏は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行は「必要になる可能性が高い」としながらも、「ユーロ圏の通貨政策の伝達を阻害するような金融システムの混乱原因になってはならない」と警告した。
デジタル通貨の導入時に金融の安定性を維持する鍵は、導入過程で市中銀行に役割を持たせることだとパネッタ氏は言う。そうすることで、中央銀行は顧客のオンボーディングやマネーロンダリング(資金洗浄)対策に関する市中銀行のノウハウを生かすことができ、市中銀行はフロントエンドサービスを提供し続けることができると考えられる。
米連邦準備理事会(FRB)が1月に発表したディスカッション・ペーパーでも、銀行が同様の役割を果たすことが予見されている。同報告書は、消費者のプライバシーを保護する上で金融仲介機関が果たすべき潜在的な役割について言及している。また、ECBもプライバシーの問題に目を向けている。
さらにパネッタ氏は、「CBDCを発行することで、現金の需要が弱まる中、ソブリン・マネーが引き続き貨幣と決済に対する信頼を支える役割を果たせるようになり」、「銀行の市場支配力を弱め、顧客との契約条件を改善することで」銀行間の競争を促進させることになるだろうと述べている。
パネッタ氏は、CBDCと通貨政策の間の複雑な潜在的相互作用に関する調査を基に、CBDCを慎重に設計する重要性を指摘する。「私たちは決済効率、金融の安定、物価の安定という中央銀行の目標をすべて一緒に達成することはできないという『CBDCのトリレンマ』を解決する必要がある」と述べた。
デジタル通貨の設計作業は、他の形態のデジタル資産が急速に進化している影響で複雑化している。「過去10年間に不換紙幣と並んで出現したデジタル資産は、2000~2500万年前のカンブリア爆発と同様に、突如として大きな影響をもたらした」。とはいえ、他のデジタル資産の影響と釣り合う適切なCBDCがなければ、「通貨主権、中央銀行の最後の貸し手機能、金融安定にリスクが生じる」とパネッタ氏は結論づけた。