ESG投資は、持続可能な社会の構築に貢献する企業に投資することである。2020年の世界のESG投資額は35兆3000億ドル、18年比で15%増加している。
ESG投資について理解していると、投資によって長期的な安定したリターンを得られる可能性がある。本記事では、ESG投資の基本的な考え方や種類、メリット、デメリットなどをわかりやすく解説する。
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ESG投資とは
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した取り組みをする企業に投資することだ。それぞれの具体的な取り組み例は、以下のとおりである。
取り組みの例 | |
E=環境(Environment) | ・二酸化炭素の排出量の抑制
・環境汚染の対策を実施 ・再生可能エネルギーの積極的な利用 など |
S=社会(Social) | ・地域活動への貢献
・労働環境の改善 ・女性が活躍できる環境の整備 など |
G=企業統治(Governance) | ・行動規範の策定
・企業に関する情報を積極的に開示 ・社外取締役の設置 など |
投資でリターンを得るためには、将来成長が期待できる企業に投資する必要がある。これまで成長が期待できる企業とは、単に儲かっている企業であると考えられていたため、業績や財務状況などの「財務情報」をもとに投資先を選ぶのが一般的であった。
もちろん、投資先を選ぶときに財務情報を確認することは重要だ。しかし投資家が、環境に配慮せずに利益ばかりを追い求める企業や、働いている人を大切にしない企業ばかりに投資すると、たとえ景気が良くなったとしても社会は良くならないだろう。また、たとえ業績が良かったとしても不祥事が発生して企業価値が下がると大きな損失を被りかねない。
そこで従来の財務情報に、環境・社会・企業統治といった非財務情報を組み合わせることで、より長期的な成長が期待できる企業への投資が可能になる。特に公的年金基金をはじめとした長期的に大きな資産を運用する機関投資家は、リスクを軽減するためにESGの観点を用いて価値が安定的に向上するとみられる企業への投資を積極的に行っている。
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ESG投資はなぜ注目されるのか 非ESG企業が抱えるリスク
ESG投資は、2006年に国連のアナン事務総長が提唱した「責任投資原則(PRI)」がきっかけで注目されはじめた。PRIは、投資家は利益ばかりを追求するのではなく、環境・社会・企業統治について責任ある投資行動をとることを求めた行動規範である。
2008年に発生したリーマンショック以降は、短期的に利益を追求する経営や投資に対する批判が高まったため、多くの機関投資家がPRIに署名した。2015年には、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法(GPIF)が署名し、2017年から1兆円規模のESG投資を開始している。
GPIFがESG投資に積極的な姿勢をみせたことで、ESGへの取り組みに消極的な企業は、投資対象から外れるリスクを抱えることになった。またESGに取り組まない企業は、投資している株式や債券、投資信託などの資金を投資家が引き揚げてしまう「ダイベストメント」の可能性も高まった。その結果、多くの企業がESGへの取り組みを積極的に行うようになり、ESG投資が注目され、浸透していったのである。
ESGとSDGsの違い
SDGsは、2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標のことだ。「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、世界から貧困をなくして持続可能(サステナブル)な世界を実現するために17のゴールが設定された。
SDGsとは、国や国際機関が主導する「目標」であるのに対して、ESGは企業や業界がSDGsという目標を達成するための「行動規範」である点が異なる。
ESG投資の手法・種類
サステナブル(持続可能)な投資を促進する国際団体である「GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)」によると、ESG投資の手法・種類は7つに分類される。
投資手法 | |
ネガティブスクリーニング | アルコールやたばこ、武器、ギャンブルなどESGに反する特定の事業を営む企業を投資の対象から除外する |
ポジティブスクリーニング | 同種の業界や投資対象のうち、ESGのパフォーマンスが優れており、評価が相対的に高い企業を投資対象とする |
規範に基づくスクリーニング | 国連グローバルコンパクトやOECDなどが定めるESGの基準をクリアしていない企業を投資対象から除外する |
ESGインテグレーション | 財務情報やビジネスモデルにもとづいた投資判断と、ESG要素を組み合わせて投資対象を選定 |
サステナブル・テーマ投資 | エネルギーや気候変動、食料など持続可能性をテーマとする事業に投資する |
インパクト投資 | 社会問題や環境問題の解決に強い好影響をもたらす技術やサービスによる事業に投資する |
議決権・エンゲージメント | 経営者とのエンゲージメント(対話)や議決権行使を通じて、投資先の企業に対してESGへの取り組みを促す |
ESG投資をする方法 銘柄選びとファンド
ESG投資の方法には「ESG銘柄を選ぶ」と「ESG投資信託(ファンド)に投資する」の2種類がある。
ESG銘柄を選ぶためには、企業ごとのESGへの取り組みを一つひとつ分析・評価する。上記の手法で銘柄を絞り込んでいくとよいだろう。MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)をはじめとした格付け機関のESG格付けを参考に選ぶのも方法だ。
ただしESG銘柄の選定には、情報の収集や分析に時間と労力がかかることに加え一定の投資経験も求められる。その点、投資信託であれば、ESG銘柄の選定や投資比率の調整などをすべてプロに任せられる。投資経験が浅い人やESG銘柄の選定に時間が割けない人は、投資信託を選ぶと良いだろう。
ESG指数
ESGに配慮した取り組みを行う企業で構成された株価指数(ESG指数)も存在する。以下はその一例だ。
ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・ワールド・インデックス(DJSI World):時価総額で世界の上位3500社のうち、産業ごとにESGの取り組みを評価された上位10%の323社で構成されている(22年1月25日時点)。
Morningstar ジェンダー・ダイバーシティ指数(GenDi):先進国の大中企業(日本除く)のうち、企業のジェンダー間の平等に対する取り組みを19項目から評価し、スコアに基づき投資比率を決定する。2168社から構成されている(21年2月28日時点)。
MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数:日本で上場している時価総額上位700銘柄のうち、業種ごとに相対的に優れたESG評価の銘柄を対象としている。235社から構成されている(20年12月時点)。
ESGファンドに投資する場合、アクティブファンドであればどのような評価基準で銘柄を選定しているのか、インデックスファンドであればどの指数に連動しているのかを交付目論見書で確認し、投資対象となるESG企業も把握しておこう。
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ESG投資のメリット・デメリット
ここでは、ESG投資のメリットとデメリットをそれぞれ解説していく。
ESG投資のメリット
ESG投資のメリットは、主に以下の2点だ。
- 長期の資産形成に向いている
- 社会貢献につながる
ESGに注力する企業は、短期的に高い利益を上げるのではなく、持続可能性を高めて安定的な成長を目指している。またESGに消極的な企業よりも機関投資家の投資対象に選ばれる可能性が高く、中長期的に安定して資金調達ができると考えられる。
さらには経済環境や法律、労働・人権に対する価値観などの変化に柔軟に対応できるといわれているのもESGに取り組む企業の特徴だ。これらの点からESG投資をすると、長期的に優れた運用成果が期待できる。
ESGに取り組む企業は、環境や人権、労働などのさまざまな課題に取り組んでいる。ESG投資をすることで、社会的な課題解決に投資という行動を通じて貢献できるといえる。
ESG投資のデメリット
一方でESG投資には、以下の2点のデメリットがあると考えられる
- 短期で高いリターンは期待できない
- 投資先の選定に時間がかかる
ESG投資は、基本的に長期的に安定したリターンを目指す投資方法であるため、株式投資やFXとは異なり短期的に大きなリターンは期待できない。リスクを背負ってでも、短期的なリターンを狙いたい投資家にとってESG投資は不向きといえる。
ESG銘柄を選定する場合、財務情報に加えてESGへの取り組みも分析・評価する必要がある。また真剣にESGに取り組む企業と、「グリーンウォッシュ」をしている企業を見分けなければならない。グリーンウォッシュとは、市場での評価を上げるためにESGに取り組んでいるかのように見せようとすることだ。そのためESG企業を選ぶ際には、時間や労力がかかる。
ESG投資のパフォーマンス
GPIFは、GPIFが選定したESG指数7本のリターンと親指数等との比較を公開している。
親指数とは、ESG投資対象企業を絞り込む前の対象市場である。たとえば、前述のMSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数(表の①)の親指数は、MSCIジャパンIMIトップ700指数であり、これは日本で上場している時価総額上位700銘柄から構成されている。そのため、親指数とESG指数のパフォーマンスを比較すれば、市場全体に投資した時と比べて、ESG企業への投資は、より多くのリターンが得られるのか否かがわかる。
過去4年間のパフォーマンスを見ると、ESG指数は親指数のリターンを概ね僅かに上回っているが、直近1年間のリターンでは負けている。ESG指数7本の過去4年間だけの結果だけで言えば、ESG投資が、とりわけ儲けられるというわけではないのがわかる。GPIFは比較的高いシャープ・レシオ(取ったリスクに対して得られる超過リターン。運用効率性)などを理由に「ESG投資は長期にわたるほど、リスク調整後のリターンを改善する効果が期待される」と考えているという。
ESG投資は長期投資に向いた投資方法であると述べた。しかし、ESG投資は2006年に国連がPRIを提唱したことから注目されるようになり、日本においてはGPIFがPRIに署名したのが15年、ESG投資を開始したのが17年である。世界でESG投資が拡大し、重要性が高まっているのは間違いないが、比較的歴史の浅い投資方法であるため、ESG投資の長期的なパフォーマンスの検証はこれからということを覚えておこう。
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