日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)は、2024年度から、サステナブル経営を本格化させる方針を打ち出した。
2024年4月に、サステナブル経営の戦略立案および実行を担う「サステナビリティ推進室」を設置。マテリアリティとして、「環境」、「DEI」、「レジリエンス」、「安全・安心」、「誠実な経営」の5つを掲げ、サステナブルな企業成長とともに、社会課題解決に貢献することを目指す。
日立GLSでは、SDGsのなかから12の目標を優先課題とし、「事業を通じた社会課題解決による貢献」と「事業を支える経営基盤強化による貢献」に取り組んできた経緯がある。今回のサステナブル経営では、これを組みなおしたものが、5つのマテリアリティになると位置づけている。
日立グローバルライフソリューションズの大隅英貴社長 CEOは、「従業員主導で策定したパーパスの実現そのものが、日立GLSのサステナブル経営になる」とし、「ひとりひとりに、笑顔のある暮らしを。人と社会にやさしい明日を。私たちは、未来をひらくイノベーションで世界中にハピネスをお届けします」というパーパスを、サステナブル経営の中核に置く考えを強調。さらに、「家電や空調は、人々の生活に直結しているビジネスである。日立GLSは、生活の第一線から、社会イノベーションを実現する会社である」と定義しながら、「日立GLSでは、これまでにもパーパスのなかで、笑顔のある暮らしの実現を目指してきたほか、再生プラスチックを製品に採用するなど、環境にも積極的に取り組んできた。また、日立グループの企業倫理や行動規範が定着し、それをもとに事業活動をしている。これらは、サステナブル経営を構成する取り組みではある。今回は、DEIや安全・安心、空調および医療分野での取り組みも明確にし、そのメッセージをオープンにしていくことで、社員をはじめ、様々なステークホルダーが、サステナブル経営を意識し、気づきと誇りを持って、仕事に取り組む環境の構築を目指した」と狙いを述べた。
具体的な活動として、積極的な情報開示を進めることで、ステークホルダーに対するサステナブル経営の取り組みを可視化。その取り組みのひとつとして、2024年8月7日から、同社のサステナブル経営に関するサイトを公開した。
また、サステナビリティ先進企業としての認知向上やブランドポジションの確立、KPI達成に向けたPDCAサイクルのモニタリング、未来洞察やバックキャストによる経営戦略やビジョンの策定支援、従業員のサステナブルマインドの醸成などの活動も推進することになる。
日立GLSがサステナブル経営で打ち出す5つ取り組み
日立GLSがサステナブル経営で打ち出した5つのマテリアリティの具体的な取り組みを見てみよう。
「環境」では、脱炭素、資源循環、自然共生を、サブマテリアリティに掲げている。
脱炭素では、バリューチェーンにおけるカーボンニュートラルや、事業を通じた顧客や社会へのCO2削減貢献をあげている。
バリューチェーンにおいては、2030年度までに、同社工場やオフィスのカーボンニュートラル達成を掲げ、栃木事業所での太陽光発電設備の導入などによる再生可能エネルギーの活用、HICP(Hitachi Internal Carbon Pricing)を活用した環境配慮型設備への更新、多賀事業所などでのフォークリフトのEV化を進める。
また、顧客の脱炭素支援としては、環境負荷の低い製品やサービス、ソリューションを提供して、CO2排出量削減に貢献。AIが常時消費電力を予測して、目標デマンド値を超えないように空調機器を制御する「exiida遠隔監視・デマンド制御ソリューション」や、高い省エネ性能を実現し、R32による低GWP冷媒を採用することで、環境負荷を低減する環境配慮型空調機器をラインアップしていることを示した。
資源循環では、サーキュラーエコノミーへの移行や、資源利用効率の改善を掲げ、リサイクルや資源再生に取り組んでいる事例を紹介。栃木事業所では、ミックスプラスチックの選別装置を導入し、ポリプロピレンを選別して再利用している事例や、コードレススティッククリーナー「PV-BH900SM」では、高い品質感を保つデザインを採用しながら、再生プラスチックを積極的に活用。「HITACHI」のロゴ部分も塗装せずに刻印を使用することで再生しやすい環境を実現しているという。
「再生プラスチックは色が出しにくいという欠点があるが、それを逆手にとって、黒を採用したデザインを採用している。一方で、日立の品質を維持ながら、再生プラスチックの課題である強度にも対応しなくてはならない。サステナブル経営を推進する上では、新たなアイデアも必要であり、設計方法にも変化が求められる。モノづくりも変わっていくことになる」などと述べた。
なお、同社では、リファービッシュ品の販売も行っているが、「再生のための手間暇がかかっており、炊飯器などのキッチン家電には多くの配慮が必要だという前提もある。また、サブスクリプションモデルもやっていたが、コスト面での難しさがあり、現在は停止している」と語った。
2つめの「DEI」については、多様で公平な社会への貢献として、「誰もが使いやすい製品やサービスを提供。QoL向上や日々の家事に楽しさを提供し、一人ひとりに笑顔がある暮らしを提案する」とし、「社会にハピネスを届ける商品づくり」や、DEIの推進をベースにした「次世代人財育成」に取り組む。
「社会にハピネスを届ける商品づくり」では、「ARおそうじ」を提供。人気ゲームソフトのように、画面に表示された床の部分を色で塗りつぶすように掃除をすることで、楽しく掃除機を利用したり、家事サポートアプリ「ハピネスアップ」では、地域の天気情報と連動し、洗濯指数を表示して、最適な洗濯を支援。冷蔵庫カメラでは、家族が冷蔵庫に収納されている食材の情報をスマホで共有するといった使い方提案も行う。さらに、カリモクとのパートナーシップによる家具と融合した提案も行っている。
一方、労働力不足への対応として、空調ソリューション「exiida遠隔監視・予兆診断」を活用することで、冷凍機器や空調機器の24時間365日の監視を実現。管理者の手間を減らし、空調インフラの安定稼働をサポートしていることをあげた。
そのほか、次世代モジュール型CPCにより、再生医療の現場を支援。クリニックなどでも再生医療が行える環境構築を支援している事例も示した。
また、「イノベーションを生む多様な組織」への取り組みとして、社内における女性活躍の推進、女性管理職によるメンタリング制度の導入、部署をまたいだ女性交流会などを行っていることにも言及。大隅社長 CEOは、「DEIが会社の強さを作ると考えている。そのための文化の改革が必要であり、DEIに関する幹部によるメッセージや、男性の育休取得の促進とともに、育休を取得した社員によるトークセッションの配信、部長以上を対象としたDEI研修なども実施していく」と述べた。
さらに、日立GLSでは、部門の垣根を超えたERG(Employee Resource Group)活動を推進するための仕掛けを用意。新製品の設計や商品企画の担当者がこだわりを語り、業務上、接点がない社員同士でも語り合うことができる「ハピネス屋さんの語り場」、専門知識などを持った社員が講師となって独自に講座を開設する「GLSユニバーシティ」および「GLSサポーターズ」、10年後の未来の製品、サービスを自由に発想する「アイデアワークショップ」などの取り組みも行っているという。
3つめの「レジリエンス」については、災害・リスクに対応できる柔軟なサプライチェーンの構築に向けた取り組みとして、ソニーマーケティングと連携した国内家電市場における共同物流の実現をあげた。共同物流によって、トラックの輸送距離、運転距離を削減するほか、環境負荷の低減にも貢献。2024年4月からは、北海道にある両社の物流倉庫を統合したという。「トラック輸送に関わる人材不足は大きな課題だと感じている。フロントラインワーカーの負担軽減による物流問題の解決に貢献していく」と述べた。
4つめの「安全・安心」では、「安全・安心な消費財の提供」と、「サイバーセキュリティや顧客プライバシー確保」をあげた。
大隅社長 CEOは、「日立には、『基本と正道』、『損得より善悪』という文化があり、入社以来、これを叩き込まれてきた。この姿勢で仕事をし、品質や信頼性を徹底してきた。これにより、お客様が安全に、安心して使える製品やサービスを提供している」という。
冷蔵庫の開閉試験は30万回実施。1日100回開閉しても、約10年間使えるという環境を想定しているという。また、これだけの試験を行っても問題が発生した際には、日立伝統の「落穂拾い」の精神に基づき、品質保証活動を推進することになるという。「落穂拾い」は、なぜ問題が発生したのかを5回繰り返して分析し、原因の本質を抽出。失敗を徹底的に学ぶことを通して再発を防止し、技術を発展させる日立伝統の精神だという。
また、サイバーセキュリティにおいては、社内に情報セキュリティ委員会を設置して、ルールの整備や監査、従業員の教育および訓練を実施。日立グループの全従業員で、「One Security Team」として、情報セキュリティ対策に取り組んでいることを紹介した。
さらに、商品を販売したあとのサポートも重視しており、家電では国内90カ所のサービス拠点、空調では110カ所の修理拠点による対応のほか、2023年度下期から、生成AIを活用することで、問い合わせ対応や修理対応を迅速化するとともに、顧客満足度の向上を図っているという。
最後の「誠実な経営」においては、「企業倫理とコンプライアンス」、「人権の尊重」、「安全衛生、健康経営」といった観点から取り組むことになる。
大隅社長 CEOは、「日立では、2009年4月に、冷蔵庫のカタログなどの表示内容において誤解を招くものがあり、景品表示法に基づく排除命令を受けた。この過ちを風化させず、二度と繰り返さないために、毎年4月に啓発メッセージを社内に発信している。さらに、コンプライアンスに関する各種委員会による活動や、従業員啓発研修、コンプライアンスの月次発信なども行っている。また、人権の尊重においては、『日立グループ企業倫理・行動規範』や、『日立グループ人権方針』など、日立の方針に則った活動を推進しており、自社ならびに取引先の労働者の人権も尊重している」とする。
ここでは、次世代AIドライブレコーダーの活用により、公用車の交通事故を削減する活動や、製造部門を活用した「安全体感」、従業員一人ひとりが災害の未然防止を行う「自分KYT」の習慣化などに取り組んでいるという。
サステナブル経営推進、2021年度から社内準備を開始してきた
今回のサステナブル経営推進に向けて日立GLSでは、2021年度から、社内準備を開始してきたという。
2024年4月に、サステナビリティ推進室を設置して、全社の各部門と連携を強化。サブマテリアリティごとに責任者を設置し、KPIの達成に向けた取り組みを推進するなど、2024年度からサステナブル経営を本格的に始動することになる。
日立グローバルライフソリューションズ サステナビリティ推進室長兼DEI推進リーダーの丸山しずこ氏は、「3年前から、サステナブル経営を本格的に立ち上げる準備をしてきた。現状理解、課題把握から始め、社内の各部門から参加したメンバーによるワーキンググループを立ち上げ、それをもとに、サステナビリティ推進委員会を設置し、マテリアリティの特定を進めてきた」という。
マテリアリティの特定においては、課題抽出、優先付け、特定といったステップを踏む一方、マテリアリティ案の妥当性を確認するために、社外有識者による評価と、日立GLS経営陣とのディスカッションを実施し、その結果を受けて一部見直しを行い、マテリアリティを確定するというプロセスを踏んでいる。
まずは、国際的なサステナビリティ開示基準(GRI)や、ESG評価基準(FTSE)を参照するとともに、日立製作所や日立GLSの事業活動における課題などを踏まえて、対応すべき社会課題を抽出。SDGs目標とも関連づけを行ったほか、「ステークホルダーおよび社会からの要請」と「日立GLSにおける事業の重要性」の2つの観点から、抽出した課題を優先順位づけしながらマッピングした「マテリアリティマトリクス」を作成。重要課題を体系的に整理し、社内での議論を経てマテリアリティ案を特定するという作業を進めてきたという。
丸山室長は、「3年前から準備をしてきたが、各事業部門や各委員会などにおいて、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に関する個々の活動を進めてきた。今回のサステナブル経営の本格推進は、これらの活動を体系的にまとめたものになる」と位置づけた。