シャープは、2023年4月17日、千葉県千葉市のシャープ幕張事業所において、「創業111周年記念イベント」を開催した。そのなかで強調したのがシャープの技術力の強みである。
シャープの呉柏勲社長兼CEOは、「AI、ロボティクス、XR、6G、グリーン、宇宙産業は、シャープのビジネスの成功に欠かせない6つのゲームチェンジャーテクノロジーである。技術革新の分野において、シャープのブランドイメージを強化し、革新的な製品やソリューションを通じて消費者体験を向上させる」と発言。さらに、「変化と革新は、シャープのDNAの一部である。シャープは創業以来、変化を推進してきた企業であり、それはこれからも変わらない。世界中の消費者の生活を、より豊かにする革新的なソリューションを、今後も構築、開発することに全力を尽くす」と述べた。
また、呉社長兼CEOは、2023年11月11日に、「Sharp Technology Day」を開催することを発表。シャープの今後の技術戦略を紹介するとともに、独自技術を採用した革新的な製品やソリューションを展示する考えも明らかにした。
「Sharp Technology Day は、技術ブランドとしてのシャープの世界的認知度を高めることができるように、新たなイノベーションを披露するマイルストーンになるだろう」と位置づけた。
このように、呉社長兼CEOが、シャープの技術の強みを強調するなか、「創業111周年記念イベント」のなかでは、シャープ 常務 研究開発本部長の種谷元隆氏がモデレータとなり、「今後のシャープの技術開発の方向」について、パネルディスカッションが行われた。
シャープの種谷常務は、「世界中で大きなイノベーションが起きているなかで、シャープにとって、も強みを生かせる時代が訪れている」とし、3つの技術イノベーションと、それを構成する4つの技術について説明した。
AI、グリーン、コミュニケーションでイノベーションを
ひとつめが、AIイノベーションである。
種谷常務は、「ChatGPTをはじめとする生成AIが注目を集めるなか、シャープは、10数年前から日本語チャットエンジンを開発しており、その成果を生かせる時代にはいってきた」と発言。シャープ Platform事業推進部長の中田尋経氏は、「シャープは、2016年にAIoTをキーワードにAIの活用したしゃべる家電の提供を開始。家電を使っているだけで、生活にあわせて最適化していくAIoT家電は、12品目835種類をリリースし、累計400万台以上が日本で利用されている。また、スマホでも利用状況を判断し、スマホから話しかけ、最適な情報を提供するエモパーを提供し、累計出荷は2,000万台以上になっている」とコメント。
「新たな技術が生まれ、新規サービスが登場するなかで、AIの活用がAIoT家電の進化につながる。また、家のなかから収集された生活情報などをもとに、お客様に最適なサービスを提供するための進化を図っていく」とし、「将来に向けては、家電の省電力化によって実現する『消費電力の最適化』、健康を守り、高齢化社会を支援するための『健康アシスト』、家電が避難指示を出し、災害から1人でも多くの命を救うための『災害レジリエンス』、しゃべる家電やロボットを通じて日々のコミュニケーションを行い、生活を豊かにする『自然AI対話』に取り組んでいく」と述べた。
シャープの種谷常務も、「400万台以上のAIoT家電が、生成AIと一緒になり、価値を届ける日がそこまできている」と述べた。
2つめが、グリーンイノベーションである。ここでは、ペロブスカイト太陽電池について言及した。
シャープエネルギーソリューション エネルギーマネジメント事業統轄部PV技術部 参事の宮西晋太郎氏は、「ペロブスカイト太陽電池が注目されているのは、塗って乾かすだけで結晶化し、有機フィルムの上に塗布すれば、フレキシブルな太陽電池を作れる点にある。いままでに使えなかった場所にも応用ができる。シャープのペロブスカイト太陽電池は、ディスプレイ製造のノウハウを活用し、大面積化と低コスト製造を実現する技術を活用している。また、複写機の感光体ドラムで培った材料および塗工技術、60年以上積み重ねてきた太陽電池モジュールとエネルギー制御技術という、シャープ独自の技術を組み合わせることで実現できる。屋根に設置するだけでなく、建物の壁や窓への設置のほか、将来的には飛行体にも搭載できるようになる。ペロブスカイト太陽電池によって、新たな市場が開拓できる」と述べた。
グリーンイノベーションでは、スマートオフィスの観点からも説明した。ここであげたのがePaperである。従来のディスプレイとは異なり、ほとんど電気を使わずに表示ができるePaperにシャープは注力しているという。
シャープディスプレイテクノロジー 開発本部長の伊藤康尚氏は、「シャープは、最初に電卓用の液晶を開発して以降、半世紀に渡り液晶ディスプレイの開発を進めてきた。テレビをすべて液晶に置き替えると宣言し、それを実現してきたシャープが、今後、進むべき方向はグリーンイノベーションを実現するePaperである」と発言。「ePaperは、低消費電力であり、電源線が不要で利用できたり、一次電池が不要だったりといった特徴を持つ。E Inkと連携しながら、シャープの独自技術であるIGZOや反射型液晶技術を組み合わせながら、低消費電力表示を実現していくことになる。さらに、シャープの次世代太陽電池技術であるLC-LHや、ペロブスカイト太陽電池を組み合わせたり、携帯電話で培った通信技術やセンサー技術なども組み合わせたりすることができる。店舗でのディスプレイ広告などのePOPや、交通系インフラでの時刻表などの表示、災害発生時の緊急情報の表示なども可能になる。ディスプレイの進化を通じて、社会貢献をしたい」と語った。
ePaperを活用したディスプレイは、2023年度には市場投入する予定だという。
3つめが、コミュニケーションイノベーションである。シャープは、ラストワンマイルやラストワンホップと呼ばれる領域での無線技術に注力していることを強調。シャープ 新規事業開発統轄部長の今村公彦氏は、「シャープは、通信と放送が融合する時代を見据え、プレ6G通信の早期事業化に力を注いでいる。AIイノベーションやグリーンイノベーションの実現は、つながることが前提となる。どこでもつなげていくことが重要になる。シャープは、テレビ事業と通信事業に強みがあり、映像規格特許は日本で1位、世界で4位、5G通信規格特許は日本で1位、世界で10位となっている。いずれも20年以上の歴史を持つ研究開発の実績がある。衛星を使用したブロードキャストや、IPを活用したマルチキャストの融合にも取り組む。ペロブスカイト太陽電池と衛星との組み合わせによって、災害時の通信手段の確保といったことも可能になる。EVの自動運転も支援できる。あらゆるものをつなぐ世界を目指している」などと述べた。
2023年11月11日に開催される「Sharp Technology Day」では、より具体的な形でシャープの技術が紹介されることになるだろう。いまでは使うことが無くなったフレーズだが、「目のつけどころがシャープ」といえる技術や製品、サービスが発表されることを期待したい。